「親に連絡いくんやろ?」生活保護を拒む人たち 照会緩和でも厚い壁

生活保護を問う」(上) 所持金ゼロ、でも申請にためらい

 新型コロナウイルスの感染拡大で暮らしに行き詰まりながらも、生活保護の受給を拒む人たちがいる。申請の際、自治体が親族に援助できないかを連絡する「扶養照会」があることと、差別や偏見への恐れが背景にあるようだ。コロナ禍で国は生活保護を「国民の権利」と広報し、扶養照会も緩和する考えを示したが、困窮を知られたくない人の不安は消えていない。支援団体は制度の抜本的な見直しを求めている。

 4日夜、福岡市内の公園。男性(46)は、NPO法人「福岡おにぎりの会」が開く炊き出しに並んだ。弁当をもらい、温かいスープをすする。路上生活を始めて1週間ほどたっていた。

 日雇いで勤めていた建築会社がコロナ禍で倒産し、住んでいた寮も閉鎖された。妻子はなく、インターネットカフェに泊まるうち、お金が底を突いた。

 生活保護はもらっていない。ずっと前に消費者金融からの借り入れが膨らみ、約200万円を親に肩代わりしてもらった。「申請したら親とかに連絡がいくんやろ? もう迷惑かけたくないんよ」。勤め先の倒産も伝えられずにいる。

 住み込みの仕事を見つけたいが、あてはないし携帯電話もない。「なんとかなるやろ、と思ってたんやけど。どうするかね」

      ◇◆◇

 1日、同市内のカトリック教会・美野島司牧センター。NPO法人「美野島めぐみの家」の炊き出しに来た男性(31)も職を失っていた。所持金はゼロ。約1週間、家にあった酒と水だけでしのいでいた。

 飲食関係の会社で契約社員をしていた。1月に新型コロナに感染し、「世間の目が厳しいから」と職場には伏せた。著名な親族がおり、仕事に影響が出てはいけない、とも考えた。

 4月。仕事中に熱っぽくなり、職場から病院に向かった。検査結果は再び陽性。上司に前回の感染を知られ、退職願を出すよう促された。従うしかなかった。

 生活保護は4年ほど前、命を絶とうと思っていた頃に受けたことがある。親と関係が悪く、申請時に役所で「親に連絡するなら死ぬ」と告げた。20年話していない兄にだけ問い合わせると説得され、受給した。

 ところが、兄から親に話が伝わった。「生活保護なんか受けて一家の評価を下げるなら縁を切ってください」と親に突き放された。以来、話はしていない。だから受給をためらう。

 家賃や携帯電話料金を滞納し、携帯は止まった。前に経験した日雇い労働に行くことを考えるが、体調がすぐれず自信がない。

 生活保護の扶養照会を巡っては、厚生労働省が2月、緩和する通知を自治体に出している。親族と音信不通になっていなくても縁が切れて関係が著しく悪い場合などは実施しない-とし、問い合わせる範囲を狭くする考えを示した。

 それでも男性には抵抗がある。「通知が出て、まだ日が浅いですよね。絶対に連絡しないという保証がないと申し込みはしない」

      ◇◆◇

 厚労省の集計によると、生活保護の申請件数は2020年度、約22万8千件となり、前年度から5千件ほど増えた。窮地に陥った人の多さがうかがえる。

 しかし、支援団体の実感は異なる。受給要件を満たすのに手続きをしていない人はまだ多いとみている。

 生活困窮者を支援するNPO法人「ほっとプラス」(さいたま市)の藤田孝典理事には、暮らしに関する相談のメールが毎日20~30件届く。最も多いのは生活保護関連で、「家族に連絡されるなら受けたくない」と悩みを明かされる。

 生活保護法は、家族や親族の援助が受給に優先すると定める。一方で厚労省は以前から、親族でも70歳以上の高齢者や、本人と交流が20年間ない場合などは扶養照会をしないと自治体に通知している。それでも一律に親族に問い合わせる例は目立つ。

 藤田理事は、困窮者を社会でなく身内が支える「家族主義」の考え方が法や自治体にあり、制度の最大の欠陥になっているとみる。その上で「生活保護は扶養照会の対象が親族まで含まれ、先進諸国に比べて広すぎる。家族との関係が悪い困窮者が申請をためらう要因になっており、セーフティーネットの役目を果たしていない」と強調する。 (編集委員・河野賢治)

 生活保護 憲法25条の「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する制度で、収入が国の定める最低生活費を下回ると、不足分を支給する。食費や光熱費に充てる「生活扶助」や、医療費を公費で負担する「医療扶助」などがある。受給申請者を援助できるかどうか親族に問い合わせる「扶養照会」の対象は、父母や子、祖父母、孫、きょうだい、配偶者ら。特別な事情があれば、おじやおばなども加えられる。

PR

開催中

映像シアター

  • 2021年7月17日(土) 〜 2021年7月29日(木)
  • 福岡市保健環境学習室 まもるーむ福岡

PR