妖艶な昭和の「小屋」在りし日の青春求め、かぶり席守る常連70代

ストリップストーリーズ①初日

 「ストリップ 本日の出演者」の看板を見つめ、2時間後の開場を待つ。その朝、九州最後のストリップ劇場「A級小倉劇場」(北九州市小倉北区)のシャッター前に座り込んでいたのは、革ジャンを着込んだ佐山克己=仮名、山口県下関市。70代には見えない。

 毎日のように電車で通い、ほぼ1番を勝ち取ってきた常連中の常連。「盆」と呼ばれる動く円形舞台に最も近い「かぶり席」を死守してきた。舞台の高さはわずか四十数センチ。生まれつき右目が見えない佐山だが、手を伸ばせば届く距離まで迫る踊り子(ストリッパー)と100パーセント、目を合わせられる。

 推しの踊り子を関東や関西から追っかけてきた遠征組、踊り子からツイッター経由でリクエストされた大量の差し入れを運んできた地元組、「スト女(じょ)」と呼ばれる女性ファンも、佐山の後ろに列を作っていく。

 「いらっしゃいませー」。昼に開場すると、「テケツ」でチケットを買って2階へ。3月で開館39周年を迎えた劇場は、開演前はひんやり薄暗く、古さを取り繕う気がみじんもない。

 コロナ禍に劇場も様変わりした。約60の客席は半分程度に間引きした。最大14人が座れたかぶり席は先着4人の超激戦区になり、開場と同時に埋まる。踊り子との「ポラロイド撮影」で恒例の握手も自粛中だ。

 この世界では、1カ月を10日間ずつ「頭(あたま)」「中(なか)」「結(けつ)」に分け、踊り子は10日ごとに全国各地の劇場を渡り歩く。この日は「中」の初日で、小倉に「乗る」5人も総替わり。踊り子が順番に登場し、演目を披露する公演は1回2時間半ほど。通常は午後1時に開演し、日付が変わる頃まで入れ替えなしの4回公演だ。

 入場料は一般6千円だが、佐山は65歳以上のシルバー割で3千円。劇場社長の木村恵子(70)が先着客に時たま配る招待券や、入場11回で1回無料になるスタンプカードもためている。「これで月の半分はタダで行けるのです」。毎日通っても月4万5千円。年金で十分賄える、パチンコより安上がりの趣味なのだ。

 十数年前、「SMショー」の看板に誘われ、劇場に足を踏み入れた。深夜のテレビ番組にも引っ張りだこだったAV女優が、目の前で踊る姿に感激した。「この世界は年齢不詳も多いけど熟女が好き」。業界を引っ張ってきた生き字引的存在の熟女には、一朝一夕では築けない趣がある。小倉出身の踊り子、友坂麗もひいきの一人だ。

 劇場は青春時代の記憶を呼び覚ます。約半世紀前、福岡市最後のキャバレー「ミナミ」のボーイをしていた。大学病院の医療機器を消毒する本業を定時で終え、勤め先に内緒で始めた暇つぶし。「現金でもらうチップの千円がどんなにうれしかったことか」。そんなキャバレーの風情と昭和の空気感が劇場には残る。1人暮らしで友人もいない、生き別れた息子とは40年以上会っていない。ここは持て余した時間を消化できる唯一の場だ。

 午後1時、アダルトビデオを流していたブラウン管テレビが舞台上から撤去された。開演だ。客たちは表情を変えず、静かに待つ。♬チャラララタッター。昭和歌謡ショーの幕開けを思わせるメロディーが流れ、ミラーボールがムーディーにきらめき、場内アナウンスが流れる。

 「いかに興奮なさいましても、踊り子さんのお肌や衣装には絶対にお触れにならないようにお願いいたします」。劇場内では撮影はもちろん、携帯電話を触ることも禁止されている。

 「それでは、A級小倉劇場が自信と確信を持ってお送りする2時間数十分のショーの数々、最終最後までどうぞごゆっくりとお楽しみくださいませ」。暗転と同時に、佐山の背筋が伸びた。

(敬称略)

 ストリップ劇場が消えていく。昭和40年代、1970年前後の最盛期に全国で300軒を超えた「昭和遺産」は、ついに20軒を切った。
 九州唯一となった「A級小倉劇場」も閉館危機に直面したが、存続を願う声を力に、看板を守っていくことを決めたばかり。コロナ禍が始まった当初は2カ月間休業し、感染対策を徹底して再開。売り上げが大きく減ろうとも、風俗業ゆえに国の持続化給付金を受けられなくとも、踏ん張って営業中だ。
 「小屋」と呼ぶのがぴったりな劇場に一歩入れば、時代の変化にも揺らがぬ独自の文化と秩序の中、常連客、踊り子、従業員が支え合い、日々を刻んでいた。
 新しい踊り子がやってくる初日から、次の街へと旅立つ楽日まで。小屋の片隅に息づく人々のストーリーに耳を澄まし、いつか消えてしまうかもしれない、はかなき劇場の姿を見つめた。
(吉田真紀が担当します)

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