五輪ありきの重点措置期限 首相、あやういワクチン頼み

 政府は、新型コロナウイルス対策として福岡県や東京都などに発令してきた緊急事態宣言を解除した。想定外だったまん延防止等重点措置を使って、ワクチンが行き渡るまで時間を稼ぎ、「国際公約」となった東京五輪につなげる狙いがある。ただ、こうした政府のシナリオに専門家は相次いで疑問を投げかけており、「安全安心の五輪」は視界不良が続いている。

 「人類が大きな困難に直面する今だからこそ、世界が団結し、難局を乗り越えていくことを日本から発信していく」。首相は17日の会見で五輪開催への意欲を示した。先の先進7カ国首脳会議で「安全で安心の五輪開催」を各国首脳に約束し、支持を取り付けた首相。国際公約を守るためにも「五輪までに感染状況を悪化させることは許されない」(政府関係者)。残されていたカードは、まん延防止措置への移行しかなかった。

 当初、政府はこの措置の活用には否定的だった。未然に感染拡大を防ぐために作られたもので、今回のような感染状況が改善している局面で使うことは想定していなかった。こうした矛盾にも、官邸幹部は「制度の趣旨なんて関係ない」と開き直った。

 背景には、首相の「五輪シフト」がある。かねて首相は周囲に「五輪はやることに意味がある」と強い覚悟を示していた。

 首相は五輪開催について「日本国民の命と健康を守るのは私の仕事。責任をもって行う」と力を込めた。だが、開催リスクの認識や具体的な対策を何度も問われても、言葉を濁すだけだった。重点措置の期限は、五輪開会式から約10日前となる7月11日。五輪ありきの日程設定だった。

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 「本当に解除でいいのか」「強めた方がいいのでは」…。17日の基本的対処方針分科会では、専門家の不満が相次いだ。

 国立感染症研究所などの試算では、インドで見つかった感染力がさらに強い変異株(デルタ株)の影響が小さく、宣言解除後の人出の増加を10%程度に抑えた場合でも、7月後半から8月前半に宣言の再発令が必要になった。

 東京では既に人出は増えており、リバウンドの予兆が見られる。国立感染症研究所の脇田隆字所長は、緊急事態宣言解除を承認した条件について「リバウンドの予兆があれば直ちに緊急事態宣言を打つというのが専門家全員の意見だ」と述べた。

 それでも首相が強気を崩さないのは、ワクチン接種が加速しているからだ。首相の掲げる1日100万回接種も射程に入り、全自治体が五輪開幕直後の7月末までには65歳以上の接種を終える見込みとなった。

 ただ、国民の約5割がワクチンの2回接種を終えた英国では、新規感染者数が一時千人台まで下がったものの、デルタ株の流行で6月16日には9千人を超えた。予定されていたロックダウン(都市封鎖)の全面解除は約1カ月延期された。日本では、2回接種を終えたのは国民の6%ほどしかいない。

 ワクチン頼みの首相について、会見に同席した感染症対策分科会の尾身茂会長は「全てのガードを下げるのはまだ早い」とくぎを刺すのを忘れなかった。 (東京支社取材班)

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