夢のパイロット、入社半年で無給休職…韓国航空コロナ下の窮状

 新型コロナウイルス禍の長期化で、韓国の航空業界の苦境が鮮明になっている。収益の大きい海外路線の運航が難しく、業績が悪化。格安航空会社(LCC)が破綻したほか、業界トップの大韓航空が経営難に陥った2位のアシアナ航空の買収に乗りだす事態となった。ワクチンの普及や旅行需要の回復時期が見えない中、我慢の経営が続く。

狭い国土、頼みの国際線が前年比88%減に

 今月初め、釜山市の金海国際空港の国際線出発フロア。照明は薄暗く、入居店舗は軒並み閉まっていた。大型の電光掲示板にはフライト情報の表示がない。韓国空港公社釜山地域本部のビョンスンジョン総括企画部次長は「今は週1回の中国便があるだけ。海外路線がいつ戻るか予測できない」と説明する。2020年の国際線の輸送実績は前年比88%減の115万人に落ち込んだ。

電光掲示板にフライト表示がない金海国際空港の国際線出発フロア

 航空各社の業績悪化は従業員の暮らしを直撃する。「今は生活するだけで精いっぱいです」。昨春、韓国の航空会社に就職した韓国人男性(29)は窮状を訴えた。幼少期から夢見たパイロットとしての一歩を踏み出したが、入社から半年もたたない研修期間に無給休職を命じられた。宅配や代行運転など日雇い労働でしのぐ日々が続く。

 韓国では就職までに自費でパイロットの研修を受ける必要があり、費用は約1億ウォン(約1千万円)に上る。約300時間の飛行訓練のほか、身体検査や英語の試験もクリアし、ようやく手にしたパイロット職だけに、あきらめるわけにはいかない。男性は「世界的にワクチン接種者が増えており、年内に復職して飛行できることを願っている」と前を向く。

高速鉄道の片道よりも安い国内便「赤字でも飛ばす」

 韓国は00年代半ばから旅行需要の拡大と料金の引き下げを目的に航空業への参入規制を緩和した。韓国メディアによると、韓国のLCCは9社に上る。「LCCが多すぎて、価格の過当競争を招くむちゃな状況だった」(韓国大手の航空関係者)。国土が狭い韓国では道路や鉄道も整備され、国内線の需要拡大には限界がある。頼みの綱の海外路線がコロナで止まり、今年1月にはLCCのイースター航空が会社更生手続きを申請。コロナ禍は航空業界の課題をあぶり出した。

 航空各社は苦肉の策として国内便を増やしたが、料金は急落。ソウル-釜山間が往復約3万4千ウォン(約3400円)など高速鉄道KTXの片道料金より安い便もある。航空関係者は「国内路線を飛ばしても赤字だが、少しでもお金が入ることが重要」と明かす。背景には機材のリース料の負担軽減や、パイロットの飛行経験を維持するために運航せざるを得ない事情がある。各社は海外の上空を巡る遊覧飛行にも力を入れる。

国内線到着フロアは利用者でにぎわっていた
大韓航空との合併「政府によるアシアナ救済スキーム」

 コロナ禍は航空業界の勢力図も塗り替えた。1988年のソウル五輪の年に誕生したアシアナ航空は、ライバルの大韓航空と合併する。「大韓航空が運航していない路線にも挑んで会社をつくってきた誇りがある。現役社員もショックを受けている」とアシアナ航空のOB男性(54)は悔しがる。アシアナ航空を傘下に持つ錦湖アシアナグループは経営難のため当初、建設大手に売却する計画だったが、コロナに伴う業績悪化で大韓航空との合併に追い込まれた。

 韓国メディアなどによると、大韓航空は合併完了後にアシアナブランドを廃止する。大韓航空系列のLCCのジンエアー、アシアナ航空系列のエアプサン、エアソウルは一つの航空会社にする方針だ。

韓国ではエアプサンなど格安航空会社を含む業界再編が進む(エアプサン社提供)

 アジア経済研究所の安倍誠新領域研究センター長は「買収の内実は政府によるアシアナ航空の救済スキーム」とみる。今回の買収で、政府系の韓国産業銀行が大韓航空の持ち株会社の株10%超を保有し、重要経営事項の事前協議権と同意権を持つという。「政府の影響力が強まれば、経営的な論理よりも国策が優先される。政治的な配慮によって路線や雇用を維持することになれば、会社は高コスト体質となり、航空料金が下がりにくくなる」と利用者への影響を懸念する。業界1、2位の合併により企業間競争が損なわれ、料金の高止まりやサービス低下を招く可能性もある。

(釜山・具志堅聡)

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