まるで「HTB」 米中対立で話題のファーウェイ本社に行ってみた【動画】

 「新冷戦」と呼ばれるほど深まる米中対立の中で、その名が頻繁に取り沙汰される中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)。「ファーウェイの研究拠点がハウステンボスのようだと聞いた。どうなっているのか知りたい」。西日本新聞の海外特派員が読者の調査依頼に応える「あなたの特派員」にそんな声が寄せられ、同社本拠地がある中国広東省に向かった。(深圳で坂本信博)

 新緑に赤れんがが映える。イタリア風建築が並ぶ一角の「ボローニャ駅」に、2両編成の真っ赤な電車が入ってきた。芝生が敷き詰められた線路を走る車窓からは、モネの絵画をイメージした広い湖とルクセンブルクの旧市街を模した建築群が見えた。しばらく進むと今度は重厚な英国風の街並みが続く。「次はオックスフォード駅です」。中国語と広東語、英語でアナウンスが流れた。

欧風建築が立ち並ぶ華為技術(ファーウェイ)の研究開発基地「松山湖キャンパス」の敷地内を走る専用電車

 中国のシリコンバレーと呼ばれ、IT企業が集まる広東省深圳市。その隣の東莞市にあるファーウェイの研究開発基地「松山湖キャンパス」は、ペイペイドーム約17個分(約120万平方メートル)の広大な敷地を12地区に分け、それぞれに欧州の主要都市をイメージした建物が林立していた。

 どの建物もしっかり造り込まれており、テーマパークのような張りぼて感がない。「中身は最新式のオフィスです」。20代の男性社員が誇らしげに言った。真っ赤な社内専用電車が各地区を3路線で結んでいる。

 ファーウェイは1987年、中国人民解放軍の技師だった任正非氏が深圳で創業。当時の資本金は2万1千元(約36万円)だったが、日本を含む170カ国・地域超で事業展開し、約19万7千人の従業員を抱える巨大企業に成長した。

華為技術(ファーウェイ)の研修施設「ファーウェイ大学」。池には同社のマスコットであるコクチョウがいた

 2020年の売上高は8914億元(約15兆1500億円)。通信基地局などネットワーク事業とスマートフォンなど端末事業が主力で、高速大容量の第5世代(5G)移動通信システムでは世界最先端の技術を持つとされる。

 米中対立を背景に、トランプ前米政権はハイテク分野で対中輸出規制を発動。「ファーウェイ製品が中国のスパイ行為の手段になっている」として、19年5月に同社を禁輸措置対象に加え、バイデン米政権も措置を継続している。

 毎年20%近く売上高を伸ばし続けてきた同社は、高性能半導体の調達が困難になり、主力商品であるスマホなどの売り上げが急減。企業コミュニケーション部門の宋凱副総裁は苦境に立っていることを認め「米国の制裁が続く影響で、今年はマイナス成長になるだろう。戦略を変える必要がある」と話した。

京都の街並みを再現した「京都街」で取材に応じる企業コミュニケーション部門の宋凱副総裁

────世界的躍進の源泉

 ただ、松山湖キャンパスを行き交う社員たちの表情にそう感は見えなかった。

 「空気がきれいで研究開発に集中できる静かな場所」としてこの地が選ばれ、100億元(約1700億円)を投じて19年に完成。研究者を中心に約2万5千人が働いているという。

 ファーウェイは毎年、売上高の1割以上を研究開発費に充てており、20年は1419億元(約2兆4100億円)に上る。研究者の数は約10万5千人。人工知能(AI)や5Gなど、国際特許出願件数で4年連続世界一を誇る同社の源泉を垣間見る思いがした。

欧風建築が立ち並ぶ松山湖キャンパス(手前右)に隣接する社員用の高級マンション(左)

 「あっ! 僕は今、失恋しました」。案内役の男性社員がスマホを見て悲鳴を上げた。彼が目にしたのは、日本の人気女優が電撃結婚したという日本メディアの速報。中国ではインターネットの規制が厳しいが、敷地内は海外サイトに自由にアクセスできるという。

 社員1人当たりのオフィス面積は28平方メートル。全員に1日150元(約2500円)分の喫茶券が支給され、夕方には夜食の果物や飲み物が無料で配布される。40代の研究者は「職場が快適すぎて、家に帰るのがおっくうになる」と苦笑いした。松山湖キャンパスに隣接するエリアには高層の高級マンションが林立していた。業績のいい社員だけが市場価格の6分の1ほどの安値で住めるという。

松山湖キャンパスでは毎日夕方になると、残業する従業員に果物や牛乳などの夜食が無償で配布される

 電子立国として世界に名をはせた高度成長期の日本企業の従業員サービスと、中国企業ならではのパワフルさが合わさった印象だ。現代日本の若い研究者たちが置かれている厳しい環境を思うと、切なくなった。

 ファーウェイは19年に世界各地の若手研究者を破格の高給で雇用する「天才少年プロジェクト」を始めた。博士号を所得したばかりでも初年度の年俸が200万元(約3400万円)を超す人もいるという。

 これまでに数百人が採用された「天才少年」の一人、謝凌曦さん(32)の専門はAI研究。米国による対中制裁で調達ができなくなった高性能半導体に代わり、性能が低い半導体でも効率的に動くAIを構想中という。謝さんは「プレッシャーは大きいけれど、会社が苦境に立つほど闘志が湧く」と力を込めた。

────軍隊式の社員訓練

 松山湖キャンパスの近くには、同社の大型研修施設「ファーウェイ大学」がある。ここも、ハウステンボスさながらに欧風建築が立ち並んでおり、中国にいることを忘れそうになる。

(左)モネの絵画をイメージした湖と「松山湖キャンパス」の研究施設(右)欧風建築が立ち並ぶ「松山湖キャンパス」。屋内は現代的なオフィスだという

 修道院風のせんとうがある建物のそばから、若者たちの掛け声が聞こえてきた。洋館の内部は体育館で、ジャージーを着た数十人の若い男女が軍服姿の教官の指示で隊列を組み、行進をしている。海外赴任前と帰国後に全社員に参加が義務付けられている研修で、体力づくりと従業員の絆を強めるのが目的という。

 「ファーウェイは人民解放軍とつながっていると誤解されがちですが、違います。最高経営責任者(CEO)である任が元軍人なので軍隊式が好きなんです」。案内役の男性社員がそう言って、言葉を継いだ。「うちの会社では会議室は『作戦室』、職場は『せんごう』と呼ばれています」

研修施設「ファーウェイ大学」の欧風建築の中にある画廊

────秘密の小京都

 「この先は、写真撮影は禁止です」。深圳市内の本社エリアの一角に、国内外の重要顧客をもてなすための「迎賓館」があった。

華為技術(ファーウェイ)の本社エリアにある「迎賓館」。重要顧客をもてなすための施設で、内部には京都の街並みが再現されている

 建物の2階には、長さ百メートルほどの通りに京都の料亭や和菓子店、古本店などを再現した町屋が軒を連ねる「京都街」がある。親日家の任氏の趣味で、屋根瓦や材木はすべて日本から持ち込んで建てたそうだ。案内役は元客室乗務員の女性。町屋の中では、日本料理の調理師がその場で料理したすしや懐石料理を振る舞うこともある。

 迎賓館のロビーには、ロシア風の巨大な回廊があり、視覚障害者の男性がピアノを演奏して客を出迎えていた。日本企業の幹部も招かれたことがあるという。

 本社や松山湖キャンパスには、見学客を乗せた小型バスやカートが行き交う。皆、驚いた表情で豪壮なビル群を見上げている。巨大企業の圧倒的な資金力を見せる狙いもあるのだろう。

────透明化センター

 松山湖キャンパスの一角にある洋館に6月上旬、「サイバーセキュリティー透明センター」が開設された。技術者約200人が常駐し、自社製品にデータ流出のぜいじゃく性などがないかを最新鋭コンピューターで検証したり、顧客に安全性を説明したりする施設という。

6月に松山キャンパスに開設されたサイバーセキュリティー透明センター

 米国などが指摘するスパイ行為について、技術者の龔暁忻さん(43)は「製品が安全かどうかは技術的に確認できる」と強調した。

 同社のグローバル公共事業部門の周明成副総裁も「ファーウェイが顧客に提供するのは通信インフラ。そこに流れる情報を扱うのは各国の通信事業者で、われわれではない。技術的にも不可能だ。日本法人の顧客データは日本の法律に従って日本国内で管理している。中国政府から顧客情報の提供を求められたことは一度もない」と力を込めた。

(左)グローバル公共事業部門の周明成副総裁(右)6月に松山キャンパスに開設されたサイバーセキュリティー透明センター

 かつて日本企業が米国企業の脅威となったように、米国がファーウェイの豊富な人材と技術力を恐れ、対中制裁の標的としているのかもしれない。ただ、第三者が同社と中国政府との関係や水面下のやりとりを検証するのは困難だ。

 中国政府は、中国国内で活動する国内外の企業が扱うデータの統制強化を進めている。もし、日中の法律がぶつかり、顧客情報を中国政府に提供するよう求められたらどうするのか。周氏に尋ねると、一呼吸おいてこう答えた。「国境を越えたデータの取り扱いは、今後の大きな課題です」

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