独りぼっちの組合員、ユニオン支えに定年まで 会社の体質も変えた

団交の鬼~ブラック企業との闘い❻

 「あなたの後継者が育っていないんです。辞められたら困ります」

 福岡市の資材関連商社に勤務していた宮木則幸(70)が退社の意思を伝えると、会社幹部が困った表情を浮かべた。「いろいろあったけど、信頼されるまでになっていたのかな」。宮木は悪い思いはしなかった。2014年のことだ。

 当時63歳。嘱託社員として雇用延長で65歳まで勤務可能だったが、体の衰えを感じて退職を早めた。

 倉庫から資材を各地にトラックで配送する際の検品業務を任されていた。工事の種類に合わせ、資材がちゃんとそろっているか見極める。扱う資材は100種類以上。宮木が営業担当者に配送メニューの間違いを指摘することもたびたびだった。長年の経験と知識は会社の重要な戦力だった。

 当時を思い返す宮木の視線の先に、連合福岡ユニオン(福岡市)の「団交の鬼」志水輝美(70)がいた。

 宮木が前身団体、福岡地区労センター・ユニオン福岡に加入したのは1994年。当時、労使は激しく対立していた。宮木が定年まで勤め上げることなど、想像もできなかった。

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 宮木は行商など、さまざまな仕事を経験。40歳になり、安定した仕事に就こうとハローワークで選んだのがこの会社だった。

 入社後はまず工事現場にトラックで資材を運び込む業務を担当。93年9月、納品資材をトラックから降ろしている最中に背中に激痛が走った。椎間板ヘルニア。即入院し、仕事は休まざるを得なかった。回復が遅れる中、会社は94年2月、解雇を通知してきた。

 「使い捨てだ」。理不尽な通告に宮木の怒りは頂点に達したが、抵抗する手だてがない。たまたま目にした労働相談の新聞記事を頼りにユニオンに行き着いた。

 この案件は、誕生したばかりのユニオン福岡の最初の交渉事案。志水も書記長として力が入っていた。

 直後の3月。志水たちはすぐに解雇を撤回させ、腰への影響が少ない職場へ復帰させた。さらに、この会社が創業以来、残業代を支払ったことがなく、労働時間の管理も一切行われていなかったことが判明。是正するため、団体交渉をすかさず申し入れた。

 残業代未払い分の支払いを求めて団交を繰り返し、会社は他の社員に一律5万円を支給した。宮木は「実情とかけ離れている。全然足りていない」と訴え、ユニオンとともに闘い、2年分として50万円の解決金を受け取った。

 その後の賃上げ交渉はうまくいかなかった。プラカードを手に会社に乗り込んで抗議するなど、激しい交渉がしばらく続いた。

 転機が訪れる。98年ごろに担当役員が替わった。

 長い経験から志水は語る。「前の担当者との『あいつは許せない』という感情的な対立がいったん消えると、お互い歩み寄れる関係が築けるきっかけになることは多いんです」

 賃金や賞与の交渉は早期に妥結するようになった。団交は、会社の経営状況を丁寧に説明する場に変わった。宮木の定年まで毎年、賃金関連の妥結を探る円滑な団交が行われた。

 「以前は残業代が支払われないのに、上司が『もう帰るのか』と、部下にサービス残業を強いるパワハラが当たり前だった。会社全体の体質は良くなった」。宮木は感謝している。

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 志水にも宮木にも心残りはある。社内で仲間を増やすことができず、最後まで宮木は独りぼっちの組合員だったのだ。宮木の闘いに賛同し、社内情報を提供してくれる社員もいたが、加入まで踏み切るのは難しかったのだろう。

 ただ、宮木は孤独ではなかった。ユニオンの仲間がいた。「集会で使用者への憤りを訴える若者がいると、それを支えようと仲間が拍手を送る。自分も、みんなのように信念を持って生きていきたいと思うようになった」

 宮木は数年前にユニオンを退会したが、時折事務所に足を運び、同世代の志水とも交流を続ける。「健全な労使関係を築けたことで、定年を迎えられた。1人であっても闘い続ければ、展望が開けていくことを証明してくれた」。志水は宮木の闘いをたたえる。

 話題がユニオンの最近の相談事例に及ぶと、宮木の表情が曇った。「会社という組織は容赦ない。今の相談事案を聞いても、労働者を大切する企業が増えたとは思えない」。その言葉に志水はうなずいた。闘っても闘っても、新たな問題は浮上してくる。 (竹次稔)=敬称略

 志水輝美(しみず・てるみ) 長崎県出身。1969年に日本国有鉄道(国鉄)入り、74年から労働組合活動に携わるようになる。国鉄を離れ、96年に連合福岡ユニオン結成に関わり、専任の書記長に就任した。副委員長を経て、2015年から特別執行委員。17年にはふくほくユニオンを結成し、副委員長に就任。両ユニオンに携わるダブルワーク中。

※次回は7月4日午前6時にアップ予定です

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