豪雨で犠牲「おじちゃん」夫婦の田んぼ託され…田園風景の再生を夢見る

 昨年7月4日の熊本豪雨で球磨川が氾濫し、熊本県人吉市の農業西弘敬さん(44)は自宅や農機具が水に漬かり、青々とした水田は茶色に染まった。「復旧できるのか…」と悩んでいた時、亡くなった近所の老夫婦の田んぼを託された。「稲穂が輝く風景を取り戻したい」。農作業に汗を流していた2人の姿を思い浮かべながら再起を誓った。

 7年前に農業を継いだ西さんは、市内に水田約2ヘクタールを所有する。就農当初から農薬を使わない米作りに取り組み、有機JAS認証も取得。毎年3トンを超えるコメを収穫していた。

 1年前のあの日、早朝から消防団員として出動し、避難誘導をしていた西さんに、家族から電話があった。「自宅が浸水した」

 帰宅しようとしたが、川からあふれた水で動けず、近くの民家2階に避難。自宅は1階が冠水し、倉庫にあった農機具はほぼ使い物にならなくなった。順調に育っていた稲も、一部の水田を除き土砂に埋まった。

 西さんが住む同市下薩摩瀬町では住民5人が犠牲になり、その中に国本一さん=当時(80)=と妻洋子さん=同(79)=がいた。

 幼い頃から「国本のおじちゃん」と呼んで親しくした。消防団の先輩でもあった。西さんは、夫婦で畑に出て夜遅くまで野菜を育てる姿を見掛けるたびに「頑張ってすごいな」と感じていた。

 水害から2カ月後。国本さんの娘から「父と母が残した田んぼを守ってほしい」と頼まれると、農作業に励む2人の姿が思い浮かんだ。「一日も早く元の水田に戻したい」と引き受けた。

 農地復旧には費用がかかる。農業機械を買い直す必要もあり、自己資金だけでは足りない。親しい知人に相談して、インターネットで資金を募るクラウドファンディング(CF)に行き着いた。

 300万円を目標に今月1日に始めたが、25日時点の集まった額はまだ1割程度。支援者を農業体験や収穫祭に招待するほか、コメや焼酎などの返礼品も用意して、参加を呼び掛ける。

 今年の田植えは6月末。仲間と共同購入した機械で、被害を免れた水田で再起への一歩を踏み出す。集まった資金は農機具の購入や農地の保全に使う予定。将来は法人化し、農地の区画整理事業などで「水害に負けない農業」を実現したい、と考えている。

 道のりは遠いが、西さんは「僕たちは前に進まないといけない」と笑顔を見せる。この街に田園風景を取り戻すことが、国本さんの田んぼを生かす道だと信じて。

 (西村百合恵)

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