【動画】子ガエルはなぜ山頂を目指すのか。謎に満ちた宝満山の命の営み

 1センチにも満たない小さな体で、一歩また一歩。幾多の危険も顧みず、なぜ、子ガエルたちは山を登るのか―。福岡県太宰府市と筑紫野市にまたがる宝満山(829メートル)。毎年5月半ばから6月下旬にかけ、ふもとの池で生まれたヒキガエルの子どもたちが、頂を目指して一斉に歩みだす。都市近郊の身近な自然を舞台に繰広げられる神秘的な営みにレンズを向けた。

 5月12日。宝満山南西側のふもとの池の岸辺が真っ黒に染まっていた。数万匹のヒキガエルの子どもの群れだ。時折強く降る雨のなか、まるで示し合わせたかのように一斉に上陸を始めた。山頂までの標高差は実に600メートル以上。40日以上をかけた過酷な旅の始まりだ。それにしても、この小さな体のどこに、自然の摂理を感じ取る知恵があるのかとつくづく思う。3日後、九州北部は梅雨入りを迎えた。

 子ガエルたちの旅立ちを無事見届けた佐賀大名誉教授の田中明さん(77)は「なぜ登るのかって?カエルに聞かないと分からない」と笑った。本来は環境情報学が専門だが、近くに暮らす縁もあってここ数年、足を運んでは観察を続けている。国内外の事例や論文を調べてみたが、子ガエルの“登山”は、ここ以外では確認されていないという。

仮説…地球の磁場を感じ取る?

 仮説はある。ヒキガエルが嗅覚を持ち、生まれた池に戻る習性があることが証明された研究がある。同様に宝満山の子ガエルも、登山者らに付いたある種の“におい”を追って、山を登っているのではないか。事実、田中さんによると、カエルの多くは、分かれ道や新しい登山道がある場合、人通りの多い方を選ぶ傾向があるという。

 「嗅覚だけでは説明できない。地磁気など複合的な要因も関係しているのではないか」

 そう推測するのは、いのちのたび博物館(北九州市)の江頭幸士郎学芸員(34)。地球の磁場を感じ取って長距離を飛行する渡り鳥のように、子ガエルもそうした能力を備え、山を登っているのではないか、というわけだ。「子ガエルの移動が宝満山のように長距離に渡って観察できるのは非常にめずらしい。人々に愛されている山だからこそ、発見され、注目を集める現象になった」とも付け加えた。

太陽、蛇、車…厳しい試練

 子ガエルの旅路は、厳しい試練の連続だ。容赦なく降り注ぐ太陽は、皮膚の乾燥を招く。蛇のヤマカガシや、肉食性昆虫のオサムシなどの天敵のほか、林道を走る自動車も脅威となる。江頭学芸員によると、1匹のヒキガエルは約6千~1万5千個の卵を産むが、3年後まで生き残る確率は千分の1という観察結果もある。

 地元有志らで作る「宝満山ヒキガエルを守る会」ではこの時期、カエルの通り道を遮る側溝に一時的に石や草を置いて足がかりとなるよう補助したり、登山者らに注意を促す看板を立てたりと、保護活動に取り組んでいる。

 なぜ山頂を目指すのか。山頂からどこに向かい、どのような暮らしを送るのか。いまだその生態の多くが謎に包まれた「宝満山のヒキガエル」は2020年、太宰府市の市民遺産に選出された。同会の渡辺利久男さん(78)は「カエルたちの生への執着に感心させられる。小さな体で一生懸命登る姿を見ると、頑張れ、頑張れと応援したくなりますね」と話した。

(写真と文・軸丸雅訓)

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