日本は「飛び恥」? 航空大手、出遅れる脱炭素

 航空各社が二酸化炭素(CO2)排出実質ゼロに向け、再生燃料への切り替えを迫られている。軽んじて対応を怠るようなことがあれば、社会の持続可能性に背を向ける企業のレッテルを貼られ、国際線の運航にも影響しかねない一大事だ。燃料の開発や調達を国家プロジェクトとして進める必要性も指摘されるが、国内の取り組みは欧米に比べて出遅れている。

 日本航空は5月に公表した中期経営計画で、CO2排出を2050年に実質ゼロにする目標を明記し、実現に向けた工程表も示した。今月17日の株主総会で、赤坂祐二社長は「ESG(環境・社会・企業統治)経営を推進する」と株主に約束。CO2削減を最重要課題に位置付けた。

 日航は19年度、家庭約334万世帯分に相当するCO2を排出した。問題は航空機に使うジェット燃料をどうするか。そこで同社が打ち出したのが、従来のジェット燃料を「持続可能な航空燃料(SAF)」に切り替えていくことだ。出資する米バイオ燃料製造ベンチャーからSAFを調達し、22年度にも国際線定期便に導入。30年度には燃料全体の1割をSAFに切り替える目標を掲げる。

 全日本空輸を傘下に持つANAホールディングスも4月、50年実質ゼロの目標を表明した。既に東京-ロンドン間で30往復分に相当するSAFをフィンランドの製造会社から調達し、20年11月から国際線定期便の一部に使用しており、取り組みを拡大する。

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 航空大手が脱炭素を加速させる背景には国際潮流がある。国際民間航空機関(ICAO)は「CORSIA(コルシア)」という脱炭素の枠組みを採択。21年以降、国際線を運航する航空各社にCO2の年間排出量を19年よりも抑えるよう求める。

 航空機が温暖化対策を求める市民運動の「標的」になったことも大きい。国土交通省によると、旅客機の輸送量当たりのCO2排出量は鉄道の約6倍。欧州では航空機移動を非難する「飛び恥」という言葉も生まれた。日航の亀山和哉ESG推進部企画グループ長は「グローバルで社会的要請が大きく、削減に取り組まないと事業が存続しない。待ったなしだ」と語る。

 業界では低燃費の機材導入や運航ルート改善も進めるが、CO2の大幅削減にはSAFが不可欠だ。航空会社の調達や空港での供給ができなければ、将来的に国際線の運航に支障が出かねない。エネルギー基本計画の改定では、産業別の削減目標が課される見通しで、ここでもSAFの導入が欠かせない。

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 SAFは現在、生産量が世界の全航空燃料の1%以下しかなく、世界的な争奪戦となっている。国交省によると、フィンランドの会社が廃油原料のSAFを商用化。米国では2社がプラント建設などを進め、独ルフトハンザなど欧米の航空大手で導入が広がる。

 一方、日本はまだ複数の企業が開発中という段階にすぎない。このため現状では海外から調達するしかなく、安定確保などの課題が多い。価格も通常のジェット燃料の2~4倍と高く、輸入依存は国内勢の競争力低下を招きかねない。

 さらに今後の動向次第では、SAFを供給できない空港からは航空機が飛ばない-といった事態もあり得る。輸入依存は経済や国民生活のリスクになりかねず、SAFを半導体やワクチンのような戦略物資と位置付けるべきだ、とする指摘も少なくない。

 出遅れを取り戻そうと、国交省は3月に官民の検討会を設立。30年ごろのSAF商用化を目指し、技術開発に国の2兆円基金の活用も検討する。同省航空戦略室の寺島陵太課長補佐は「低コストで安定的な確保や供給を可能にすることが重要だ」と話す。

 (中野雄策)

 SAF 英語の「Sustainable(持続可能な)Aviation(航空)Fuel(燃料)」の頭文字を取った言葉で「サフ」と読む。廃食油や都市ごみ、木質バイオマス、藻などを原料とするジェット燃料で、原油を使った通常の燃料に比べ、二酸化炭素(CO2)排出量を6~8割削減できるとされる。専用の機体やインフラが必要な水素燃料と異なり、導入しやすいメリットもある。

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