職域接種の迷走 思惑先行、見通し甘過ぎる

 政府の新型コロナウイルス対策を巡り、またも見通しの甘さが露呈した。

 職場単位でワクチンを打つ「職域接種」の新規受け付けが急きょ中止された。申請が想定を大きく上回り、ワクチン供給が追い付かない状況に陥った。

 ワクチンはコロナ禍克服の切り札とされるが、接種を急ぐあまり社会に混乱を広げてはならない。政府はワクチン需給の全体状況や課題をよく見極め、公平かつ着実な接種体制の構築を図るべきだ。

 職域接種は、企業などが医療関係者や会場を自前で確保し、従業員や家族らを対象に行う国の助成事業だ。自治体とは別の接種ルートを設けることで早期の集団免疫獲得が見込まれ、多くの企業が申請に踏み切ったこと自体は歓迎すべきことだ。

 問題は、申請の殺到とワクチン不足を予見できなかった政府の側にある。申請の受け付けは先週初めに職域接種が本格スタートしてわずか1週間足らずで打ち切られた。準備を進めていた企業側ははしごを外された形になり、従業員らの健康管理の再考を迫られている。

 菅義偉政権は「ワクチンは十分に確保した」「1日100万回の接種を目指す」として、自衛隊による大規模接種会場の設置、教育現場の先行集団接種なども進めてきた。そうした動きには不安や疑問の声もある。

 当初(1)医療従事者(2)高齢者(3)基礎疾患がある人-とされた接種の優先順位は事実上、崩れてしまった。職域接種には「従業員への接種の強要につながる」「非正規労働者が後回しにされる」「資金や人員に余裕がない中小企業では実施自体が難しい」といった指摘もある。

 政府は、こうした人権上の懸念や格差の問題に留意し、外国人労働者を含む弱者が取り残されないよう企業への指導や支援にも力を入れる必要がある。

 接種の現場では、使用済み注射器の誤使用、接種間隔の取り違え、期限切れワクチンの接種など、先月中旬までに100件を上回るミスが起きている。政府が強引に進める接種の加速がミスの誘発要因になっていないか。この点も気掛かりだ。

 菅政権による一連のコロナ施策で目立つのは、中長期的な視点を欠いた場当たり的な対応である。今回の事態も、東京五輪の有観客開催やその成果を次期総選挙でアピールする狙いから接種ルートの拡大に走り、つまずいた印象が拭えない。

 ワクチン接種が急がれるのは言うまでもなく五輪のためではない。あくまでも国民の命を守り、安心安全な日常を早く取り戻すためだ。政治的な思惑の先行などあってはならない。

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