核禁条約の議論で「人間の安全保障」の進化を RECNA中村准教授に聞く

ネクストステップ 「核なき世界」を問う❷

 国連の採択から7日で4年となった核兵器禁止条約。今年1月に発効し、核兵器廃絶への期待が高まる一方、核保有国には依然として核兵器の威嚇により、武力衝突を回避する核抑止の考えが根強い。日本でも米国の核の傘に頼る安全保障政策がとられてきた。核兵器がない形で平和を守ることは果たしてできるのだろうか。核軍縮を巡る国際情勢に詳しい長崎大核兵器廃絶研究センター(RECNA)の中村桂子准教授に聞いた。(聞き手は西田昌矢)

 RECNAが今年6月時点の推計として発表した、この地球に現存する核弾頭は1万3130発。ロシア、米国、中国、英国、フランス、インド、パキスタン、イスラエル、北朝鮮の9カ国が保有する。推計を始めた2013年から減少傾向にあるものの、配備中の核兵器は高性能化したものに置き換わりつつある。

 -核禁条約によって核兵器を廃絶するためには核保有国を署名・批准させる必要がある。その方法はあるのか。

 「核禁条約の締約国会議にはオブザーバー参加があります。条約に署名せずとも、締約国会議に保有国をうまく関わらせることはできると思います。遠回りではあるが、条約が自分たちに関係ないという態度を保有国に取らせないことが必要です」

 -核兵器廃絶のために、核禁条約以外の枠組みを利用することも想定されうるか。

 「もちろん。核拡散防止条約(NPT)は重要になります。核保有が認められた米国やロシアなど5カ国が核弾頭をゼロにするために努力するのを義務付けているのはNPTだけです。核禁条約とNPTを有機的に連動させて核保有国に圧力をかけ、両者が相互補完関係であることを強く打ち出すことが重要になります」

 -そのためにも54カ国・地域(今年2月時点)にとどまっている核禁条約の批准国を増やすことは重要になってくる。

 「その通り。この条約はゲームチェンジャー。一番の肝は核兵器に対する見方を変えることです。そのためには圧倒的に条約が世界の声にならないといけない。条約は17年に国連決議で採択された際、122カ国・地域が賛同している。一日も早く条約に署名する国を増やし、実質的にこれが世界の声になることが必要です」

核兵器は危険を増長するという立場に立って

 核禁条約は条約の理念を記した前文と、核兵器の全面的な廃絶に向けた取り組みや、核兵器や実験による被害者への援助などを定めた20条で構成。新型コロナウイルスの影響で延期の可能性が高まっているが、締約国会議は条約発効後の1年以内に国連事務総長が招集する。その後も2年ごとの会合と6年ごとの検討会議で、核廃絶のプロセスを議論していく。

 -核禁条約の今後の課題は。

 「一つは、核保有国が条約に参加する場合、核兵器が廃棄されたことをどう検証するか。条約では『国際的な権限を持つ当局』が検証するとしていますが、具体的に決まってません。被害者への援助、環境の修復も対象が曖昧なまま。条約は詳細を今後の議論に委ねるため解釈に幅を持たせている側面があり、中身は締約国会議で詰めていくことになります」

 -核兵器を禁止することで安全保障の新たな枠組みが生まれるようなことはあるか。

 「条約には安全保障の枠組みはないですが、前文には核兵器の存在そのものが全ての人類の安全にとって危険と定義しています。核の傘や核抑止は自国や仲間の国だけを核の幻によって守るという考え方です。そうではなく地球の滅亡につながる核兵器の潜在的なリスクを考えるのが本当の安全保障で、核兵器はむしろ危険を増長するという立場に立って全ての人のためになくすというのが核兵器禁止条約です」

 -安全保障はこれまで国家間の文脈で語られてきたが、今後は条約によって変わっていくということか。

 「東西冷戦が終わった1990年代、環境破壊を含めて一人一人の人間への脅威を考える『人間の安全保障』という考え方が生まれました。核禁条約の議論で『人間の安全保障』がさらに進化する。そういう意味で、核禁条約は単なる国際条約というより、大きい時代の転換点です」

 「核兵器が実際に使われるとどうなるか、広島、長崎が証明しています。保有国の核兵器使用計画はたった一発使うようなものではないですし、一発一発の威力も広島、長崎の比ではありません。1回使われるとエスカレートするのは明らかで、一つの街がなくなって終わるだけではすまないです」

 

関連記事

長崎県の天気予報

PR

PR