見事にはまった「小池マジック」、政局へ残った「小池カード」

東京ウオッチ】秘書ひしょ話(4)

 事前の情勢予測と裏腹に自民党が失速し、「勝者なき」結末を迎えた4日投開票の東京都議選。選挙戦の最終盤、一躍主役に躍り出たのはやはり、この人だった。6月25日の告示直前、過労と体調不良を理由に入院し、首都決戦から距離を置いたように映った小池百合子東京都知事。「見事にはまったな…」。永田町を長年渡り歩き、目の肥えた自民の議員秘書も、さすがに今回の“小池マジック”には意表を突かれたようだ。

 5日、都議選の失速ショックに覆われた自民党本部に姿を現したのは、新型コロナウイルス対応の最前線に立つことを象徴する防災服を着こなした小池氏だった。慣れた様子で、4階の二階俊博幹事長室に足を向ける。面会後、記者団の前に立った小池氏は「コロナ情勢や経済の問題につきましても、しっかりとオール東京で進めていこうと、そういうお話を共有させていただきました」。過労で公務を離れた前後と比べると、その表情には精気が戻ったようだった。

 改選前、都議会第1党の座にあった地域政党「都民ファーストの会」の創業者で、今は特別顧問となっている小池氏。だが、今回の都議選では「都民ファの応援に動けない」(自民幹部)との見方が支配的だった。政治の師と仰ぎ、自民を離れた自身が自民内に唯一つなぎとめている有力パイプである二階氏との関係から発す。

 自民が負ければ、その選挙を実質的に差配する二階氏の顔に泥を塗る。加えて、1年前の都知事選は二階氏が主導して自民が対抗馬擁立を見送っており、小池氏からすれば「借り」をつくった形でもあった。だから、都議選直前に表舞台から姿を消した時も、復帰のタイミングに関して「選挙後」が当然視されていた。体調不良ならば、結果として都民ファを後押しできなくても「彼らを見捨てた血も涙もない人」の批判はかわせる。

 実際、都民ファは存続の危機に立たされた。選挙戦序盤段階の情勢調査の中には「改選前45議席が10議席前後にまで激減する(そしてそれに近い分、自民が議席を伸ばす)」との強烈なものもあったのだ。ところが、そうは問屋が卸さなかった。

「自己演出力に秀でた彼女の計算勝ちだ」   

 電撃的に「小池劇場」の幕が開いた。7月3日、選挙戦最終日のことだ。

 小池氏が都民ファの候補陣営に入った。マイクこそ握らないものの、事務所で候補者やスタッフを激励し、4年前に話題となったガラス張りの選挙カーにも乗り込んで手を振る。孤立無援だった「小池チルドレン」の都民ファの候補者たちは起死回生とばかり、「小池知事は『都民ファを都政からなくすわけにはいかない』と、疲れた体を押して来てくれた」と連呼した。テレビ各局は、その“緑のヒロイン”のイメージをどんどん放送した。

 冒頭の議員秘書は、この時に「都民ファ=小池党」という認識が有権者に強く刻み込まれ、選挙結果に決定的なインパクトをもたらしたとみる。

 同じ保守に色分けされる都民ファが一気に引き寄せた票はほぼイコール、自民が食われた票であった。自民にとっては、党の事前情勢調査が優勢だったことも裏目に出た。「大勝ムード」は各陣営に油断を生じさせ、運動量が上がらなかった。定数3以上の選挙区に複数候補を立て、議席の大幅上積みを狙う強気の戦略を取ったため、目減りした票が自民候補同士で割れて共倒れしていった。

 議員秘書いわく-。

 「自己演出力に秀でた彼女の計算勝ちだ。自分がいつ表に出るのが一番良いか。最大の効果を生むタイミングを知り尽くして、ちゅうちょなく実行した」

 「4年前の都議選のように各選挙区を走り回り、街頭演説で人を集めたらこのコロナ禍では逆効果だった。『お涙ちょうだいプラン』に切り替え、『病を押してまで』という演出に全力集中したことで、都民ファも息を吹き返した」

敗戦ムードの自民、高まる二階氏への猜疑心      

 自民には今、都議会第1党こそ奪還したとはいえ、「敗戦ムード」すら漂う。小池氏への恨み節が高まるにつけ、後ろに言葉少なに控える二階氏への疑心も党内で強まりつつある。

 「国政復帰」が常に取り沙汰される小池氏との蜜月を陰に陽に見せつけることは、永田町の文脈では「俺の手の中には、いつでも切れる『小池カード』があるぞ」との二階氏のけん制、示威に他ならない。その向かう先は、昨秋の党総裁選で自身が担ぎ、後見する菅義偉首相はもちろんのこと、「3A」と呼ばれる麻生太郎副総理兼財務相、安倍晋三前首相、甘利明党税制調査会長といった党内実力者たちだ。既に5年近くにわたり党の資金と人事の権限を握り続け、党内に「そろそろ次の人に譲るべきだ」との声も上がり始めている幹事長ポストの在任期間を、さらに延ばしていくもくろみではないか-。こんな疑心、憤まんを指す。

 «自民33議席、都民ファ31議席»

 これが、今回の都議選の産物である。予想を覆して都民ファが健闘したことにより、小池氏の都政におけるリーダーシップ、国政に濃く染み出してくる政治的求心力が損なわれる事態には至らなそうだ。一方の二階氏。都議選で、自民候補の応援に足を運ぶことはほぼなかった。自民は大苦戦し、党内的な足場にやや不安が兆しているといったところか。

 くだんの秘書の言葉を借りれば、「小池氏と二階氏。策士2人がタッグを組んで補完し合い、互いの存在を大きくしている」。阿吽(あうん)の呼吸でつながった戦略的互恵関係は当面、続きそうだ。平成、令和と数々の政局を見届けてきた秘書はこう占ってみせる。

 「来る衆院選は二階氏にとっても自民の退潮が許されない。党総裁選で首相を再選させることを前提として、『3A』とのポストを巡る権力闘争も控えている。二階氏が窮地になればなるほど、小池氏の出番が増えていくだろうよ」

(河合仁志)

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