山の頂に立つ子ガエル 軸丸雅訓

 古今東西、カエルは人々の暮らしとなじみが深い。神話や昔話、古墳の壁画、俳句、浮世絵、現代の漫画の題材になり、時にユーモラスに描かれている。愛される生き物の一つだろう。

 私もちょっと変わったカエルたちに魅了された。手足が生えそろったばかりの小さな体で、はるか高き山の頂を目指して行進する姿に。

 1月から半年にわたり、福岡県太宰府市が市民遺産に認定した「宝満山のヒキガエル」の生態をカメラで追った。麓の池でふ化した体長1センチに満たない子ガエル数万匹が、一心不乱に標高差600メートルの山道を登る。その訳は謎だ。

 撮影は「カエル目線」を心掛けた。「百段がんぎ」と呼ばれる石段は果てしなく続く絶壁のよう。茂みから天敵のヘビ、ヤマカガシが音もなく現れることもある。子ガエルたちの旅路は生死を分かつ瞬間の連続に違いない。

 日がたつにつれ、大集団はばらけていく。だんだん心配になった。本当に登り切ることができるのか。登頂に立ち会い、撮影することは可能だろうか。最後まで見届けなければ、いつも泥だらけになる私の旅も終わらない。

 子ガエルは雨の日に活発に動き、例年なら6月下旬ごろに山頂に着く。今年は梅雨の晴れ間が長かったせいか、ペースが遅かった。6月28日、8、9合目辺りに踏まれたような死骸があった。頂上では一匹も見当たらない。

 7月4日、雲がかかる山頂に再び登ってみると、いた。標高829メートルへの到達を成し遂げた子ガエル。その姿を思いがけない状況で撮影することができた。

 山頂にある竈門(かまど)神社上宮を背にたたずむ1匹。黒々とたくましく成長していた。いつもなら正面からレンズを向けると逃げるのに、まるで「待ってたぜ」と言わんばかりの顔だった。

 登頂を終えた子ガエルは山のどこかに縄張りをつくり、3年前後で大人になるとみられる。そして下山すると、生まれた池で産卵し、次の子ガエルたちがまた山頂に挑む。

 連綿と続くヒキガエルの営み。その一端を無事に撮影できたのは、泥まみれでくたくたになったカメラマンに宝満山の神様がくれたご褒美だったのかもしれない。

    ×    × 

 じくまる・まさみち 福岡県志免町出身、2006年入社。編集センター、宮崎総局を経て写真デザイン部。

関連記事

PR

PR