孤独と愛と北九州 映画「レッド・シューズ」古里で撮る監督の思い

 北九州市オールロケで製作が進められているボクシング映画「レッド・シューズ」(来年秋に全国公開予定)は、同市八幡西区出身の映画監督雑賀(さいが)俊朗さん(62)が「いつか地元で映画を撮りたい」と、16年前から温めてきた作品だ。モデルや俳優として活躍する朝比奈彩さん(27)が文字通り体当たりで映画初主演に挑戦。旦過市場若戸大橋など市内の名所がいくつも登場し、雑賀監督の「地元愛」が伝わる内容になりそうだ。雑賀監督と朝比奈さんに作品への思いを聞いた。 (白波宏野)

 夫を亡くし、経済的に困窮するシングルマザーの主人公を朝比奈さんが演じる。義母が育てている幼い一人娘を取り戻し、一緒に暮らすため、ボクシングの世界王者になろうと奮闘する物語だ。7月上旬、市内での約1カ月にわたるロケ撮影がクランクアップした。

 着想の原点は、雑賀監督が高校時代、小倉北区の映画館で見た米国のボクシング映画「ロッキー」(1976年)だ。雑賀監督は映画に興奮し、八幡西区の実家まで十数キロを歩いて帰った。道すがら製鉄所の工場群を眺め、ふと「この街でボクサーが立ち上がる話、いいよな」と思ったのだという。

 昨年10月に撮影が始まる予定だったが、新型コロナウイルス禍で延期に。撮影が始まった6月上旬まで、朝比奈さんは丸1年かけてボクシングに打ち込み、雑賀監督とは、主人公のキャラクター像をすり合わせる「本読み」を20回以上重ねてきた。

 朝比奈さんは「(撮影が始まるまでの)約1年間で、監督と私、それぞれの主人公への思いが強くなっていた。互いの意見のすり合わせが大変だった」と明かす。

 撮影が始まっても、主人公の微妙な心の変化などの演技について、監督と意見が合わないことがあった。朝比奈さんは「譲れないものは譲らない。監督に2パターン撮りましょうと提案したこともあった」と笑う。「どちらが正しいかではなく、そのシーンが1本の映画に仕上げられたときに、どれが当てはまるかが大事」と作品に向き合った。監督と演者、スタッフの全員が意見を出し合いながら撮影を進めたという。

 そんな朝比奈さんの姿を、雑賀監督は主人公に重ねながら見守った。撮影終盤には、市立総合体育館(八幡東区)で作品のヤマ場となるボクシングシーンを撮影。延べ約1500人の市民エキストラが見守るなか、朝比奈さんは過呼吸になりかけるほど鬼気迫る演技を見せた。「撮影が進むにつれ、彼女のまなざしが鋭くなり、度胸みたいなものが据わってきた。作中の主人公と一緒に、みるみる成長してくれた」

 本作は、雑賀監督のこだわりで市内7区すべてがロケ地となった。「映像資料として後世に残すことも意識した」といい、昭和の面影を残す小倉北区の旦過市場、雑賀監督の地元で、飲食店が立ち並ぶ堀川(八幡西区)では念入りに撮影。若松区と戸畑区を結ぶ若戸大橋や門司区の和布刈神社といった名所から、何げない日常風景まで「北九州独特の街の味わい」を作品に反映させた。

 撮影現場には連日、地元の人々からの差し入れが届いた。良いシーンが撮れると、市民エキストラで埋まった会場から自然と拍手が巻き起こった。雑賀監督は「地元の人たちが現場の雰囲気をつくってくれた。温かいプレッシャーが刺激になった」と話す。

 今回を含め、雑賀監督がこれまで手掛けてきた作品に共通するテーマは「孤独」だ。孤独にスポットを当てることで、人を愛し、人に愛される尊さを描いてきた。雑賀監督は「地元での撮影は周囲の人たちの愛があふれていて、それが作品にもにじみ出るはずだ。いい作品に仕上げて、愛を返していきたい」。

 さいが・としろう 北九州市八幡西区出身。東筑高(同区)卒業後に上京し、映画界入り。2001年に監督デビューし、映画「チェスト!」(08年)や「リトル・マエストラ」(13年)でメガホンを取った。「カノン」(16年)では、中国のアカデミー賞といわれる「金鶏百花映画祭」の国際映画部門で作品賞、監督賞、女優賞の3冠に輝いた。

 あさひな・あや 兵庫県・淡路島出身。2014年にモデルデビュー。雑誌やテレビCM、バラエティー番組などを中心に活躍。近年は動画配信大手「ネットフリックス」のドラマシリーズ出演でも注目を集める。

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