イムズの象徴、タイルの「黄金伝説」とスパイラルエスカレーター

ギンギラ太陽’s×西日本新聞me「イムズマンのIMSモノ語り」3

 ロックバンド「はっぴいえんど」の曲「夏なんです」の歌詞に、こんな一節がある。

 ギンギンギラギラの太陽なんです──♬。

 これは福岡市都心の複合商業施設「イムズ」にも当てはまる。炎天下、日差しを倍にして返すような金色の外壁タイルが敷き詰められているからだ。

夏の日差しを浴びてギラギラと輝くイムズの外壁タイル

 マンガンや二酸化チタンなど金属のうわぐすりを使い、鮮やかな光彩を出す仕上げで、佐賀県有田町の岩尾磁器が製造。タイルに輝きを出す技法は同社が国内で初めて導入したという。

 「私たちの自慢の技術が使われて誇らしく思いました」。当時、同社タイル部の営業だった岩尾エンヂニヤリングの清水秀郎取締役(59)は振り返る。工場はフル操業で、正月休み以外は窯が24時間態勢で稼働していた。

 〈ゴールドタイルのユニークさ(中略)は、天神のオブジェとして街に驚きと話題を提供〉。開館当時のイムズの施設資料にはこうある。それは「かぶりモノ」で福岡の街を描く劇団「ギンギラ太陽’s」主宰の大塚ムネトさん(56)の感性を揺さぶり、無許可のヒーロー「イムズマン」誕生にもつながった。

 館内にはタイルの予備が3000枚ほど保管されている。2005年3月、福岡市中央区で最大震度6弱を観測した福岡沖地震でも一枚も剝がれ落ちず、予備の出番は少なかったという。

イムズに保管されている予備のタイル。異なる大きさの3種類がある

 建物に張られたタイルは全部で何枚あるのか。開館から32年、イムズにも岩尾磁器にも資料が残っておらず「謎」になってしまった。

 ならば、とカウントに挑戦してみた。八角柱の広い面の場合、横に270枚ほど。縦は15枚で1段、それが全部で50段ほどある。窓の部分を考えずに単純計算すれば計約20万枚。それが4面あり、円柱を含む部分の4面は…というところで力尽きた。大ざっぱだが建物本体部分で100万枚以上はありそうだ(ご存じの方、教えてください)。

 タイルを巡っては「都市伝説」も生んだ。大塚さん演じるイムズマンは語る。「1枚だけ本物の金の延べ棒がある、とまことしやかに言われてきた。手の届かない高い所か、まさか入り口横の目の前か…」

 イムズ側の回答は、明快だった。「いえ、延べ棒はありません」

■   ■

 天神地下街からイムズに入る多くの人は、地下2階から地下1階へ、緩やかな円弧を描きながら上る「スパイラルエスカレーター」に乗る。この製造技術は世界で唯一、三菱電機稲沢製作所(愛知県稲沢市)にしかない。

イムズのスパイラルエスカレーター

 エスカレーターは、利用者が乗り降りするところは水平に動くが、途中は上下運動が加わる。スパイラルの場合、さらに円の移動が組み合わさる。複雑な動きを実現するのは容易ではない。同社は、傾斜に応じて中心点を動かす「中心移動方式」という技術を開発、エスカレーターの滑らかな動きを実現した。「熟練工の存在が不可欠な、もはや芸術作品です」。同社の吉田浩二さんは胸を張る。

 世界初のスパイラルエスカレーターが筑波学園都市(茨城県)のショッピングセンターに登場したのは、イムズ開館4年前の1985年。海外でもカジノやデパートなどの「集客装置」として導入されている。当然、費用はかさみ、豪華な施設の証しでもあった。累計生産台数は国内37台、海外74台。現存するのは計100台程度という。

スパイラルエスカレーターをたたえるイムズマン

 曲線を描きながら、地下2階のホールや大型ビジョン、吹き抜けを見ながら約30秒かけて上るイムズのスパイラルエスカレーター。「移動そのものを楽しむ、これぞ『コト消費』。ここにしかないわくわくを用意することで、イムズは特別な存在になっていったのだ」。イムズマンは感慨深げに語る。

 ■   ■

 バブルの象徴だった黄金タイルだが、1990年代以降、建築材料は安価な海外産が主流に。岩尾磁器も98年にタイル部を廃止し、有田本社工場はタイル製造を休止した。岩尾エンヂニヤリングの清水さんは「時代の流れで、寂しくはありますね」。

 「悲しむのはまだ早い」。イムズマンの目が輝いた。「イムズのすぐ近くにある(天神の商業施設)ソラリアプラザを見よ!」

セントシティ(北九州市小倉北区)のスパイラルエスカレーター(左、撮影・向井大豪)と、タイルが敷き詰められたソラリアプラザの外壁

 そう、1989年3月、イムズの3週間前にオープンしたソラリアプラザの外壁タイルも、実は岩尾磁器が手掛けたものだった。スパイラルエスカレーターもイムズでは動きを止めるが、北九州市小倉北区のセントシティで計4台が九州では唯一、稼働している。

 イムズマンは言う。「最先端のビルを彩った最先端の魂はしっかり、福岡に残るのだ」

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 過去の連載はこちら

①イムズの“サプライズム” 無許可のヒーローは「公認」になった

②1棟だけでビッグバン級?の衝撃 イムズの“とがり”生んだ熾烈コンペ

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