誰よりも投げられ続け…柔道の星を覚醒させた「後輩」の覚悟

ともに挑む五輪 5

 高校卒業が近づく2019年の年始、素根輝は追い込まれていた。女子78キロ超級の代表争いでライバルの朝比奈沙羅にリードを許し、同年最初の国際大会を迎えようとしていた。

 「ここで負けたら東京五輪はない」と稽古に力が入る。相手を投げると、手応えがなかった。「自分から飛ぶな!」。素根は、1年後輩の男子、ディビリア・ギルバートがわざと倒れたのを見逃さなかった。

 「地元で強くなる」と福岡県久留米市出身の素根は同市の田主丸中から南筑高に進んだ。ただ、18歳未満で争う世界カデ選手権を15歳で制した素根と他の部員とは力の差は歴然としていた。稽古相手に苦労し、1年時は高校やシニアの大会で大柄な相手に敗れた。田主丸中の後輩でもあり、1年遅れで入った178センチ、105キロのディビリアは待望の稽古相手だった。

 日本人の父とフィリピン人の母の間に生まれたディビリアは誰よりも投げられる日々に「なぜ自分ばかり」と葛藤があった。中学で実績を出せず「中途半端が嫌い。最後までやる」と覚悟を持って入部したが、音を上げかけていた。

 葛藤の中、集中力を欠く稽古をしたディビリアは素根に怒られ、目が覚めた。「あれだけ強い先輩でも、試合前には不安になり、それを打ち消すために努力している。その姿勢は誰よりもお手本だと思った」。これ以降、ディビリアは1本も気を抜かず先輩を倒しにいった。一方でロンドン五輪金メダルのオルティス(キューバ)ら素根のライバルを映像で研究し、組み方をまねた。

 後輩の姿勢に信頼を感じた素根は、卒業後も試合直前になると母校でディビリアとの練習を望んだ。東京五輪の会場でもある日本武道館での世界選手権を約1週間後に控えた19年8月には、4分1本の実戦形式の稽古を予定の6本を上回る20本も重ねた。

 座右の銘である「三倍努力」のかいあって決勝でオルティスを破って初優勝。約3カ月後のグランドスラム(GS)大阪大会決勝でも勝って東京五輪柔道日本代表第1号となった。

 「ディビリアがいたから成長できた」と素根は後輩に感謝する。ディビリアは昨春、富士大(岩手県)に進学。教員として母校に戻る道を志す。稽古をすることはなくなったが「先輩は絶対一番いい色のメダルを取るはず」と信じている。

 「相当きつかったと思うのに、最後まで付き合ってくれた。彼のためにも優勝する」。離れても、畳の上で築いた絆は色あせない。 (末継智章)

 =敬称略、おわり

 素根 輝(そね・あきら) 2000年7月9日生まれの21歳。福岡県久留米市出身。パーク24所属。日本大1年。南筑高2、3年時に団体戦の金鷲旗で2連覇に貢献。19年世界選手権で初優勝。両親と姉、3人の兄との7人家族。162センチ、108キロ。

 柔道の女子78キロ超級は7月30日。混合団体は同31日。

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