【近くて遠い東京五輪】鯉川なつえさん

◆選手へ心からエールを

 国民の多くから反対意見が出ている東京五輪が、間もなく始まる。反対理由は「コロナ対策が不十分だから」にほかならない。「安心安全」の五輪運営を実行するために1年間の準備期間があったにもかかわらず、今なお国民を不安と危険にさらしている。

 国民はもちろん、世界のスーパースターたちの感染リスクを軽視し、有観客開催へと押し切られるところだった。しかし、東京都に4度目の緊急事態宣言が出され、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県など多くの会場が無観客となり、胸をなで下ろすことができた。中途半端に観客を入れることなど考えず、潔く「完全無観客五輪」とした方が歴史に残るに違いない、とさえ思っている。

 政治への不信感が五輪への不快感に転嫁され、怒りの矛先が選手たちにも向くような状況を招いた罪は重い。入国する海外チームは歓迎されるどころか、PCR検査の結果が注目され、メディアで取り上げられるアスリートの言葉尻を捉えたネットの炎上も頻発している。開催される以上は、アスリートを批判しないことが、最低限のおもてなしだと考えたい。

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 私のようにスポーツの力に魅了されて人生を歩んできた者にとって、コロナ禍の中でも夢の舞台であることに変わりはない。五輪を初めて見たのは小学6年の夏。1984年のロサンゼルス大会だった。テレビでロケットマンが空から降りてくる華やかな開会式を見て、五輪は世界の運動会だと実感。陸上男子400メートル障害金メダリストのエドウィン・モーゼス選手が宣誓をトチったときには「五輪選手も緊張するのだな」と親近感を覚えたものだ。

 陸上男子のカール・ルイス選手、体操女子のメアリ・ルー・レットン選手、柔道男子の山下泰裕選手の金メダルなど、今でもあのファンファーレとともに思い出す。たとえテレビ観戦であっても、感性豊かな子どもの記憶は消えない。当時の私と同じ小学6年の息子は、修学旅行が中止になり「これで五輪までなくなったら、楽しみがもっと減る」と言っていた。

 57年ぶりの自国開催となる夏季五輪だが“近くて遠い東京という国”で開かれていると思えばいいのでは。時差がなく、寝不足に悩むこともなく、子どもも大人も、テレビの前で静かに五輪の感動をかみしめるというのも、おつなものかもしれない。

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 日本オリンピック委員会(JOC)が15日発表した東京五輪の代表選手は男子306人、女子277人の計583人で史上最多。コロナ禍にあっても自分を見失わず、代表の座を勝ち取った全ての選手たちに敬意を表したい。

 その中に、院生などを含む大学生が74人(12・7%)いる。学業と競技活動の両立は簡単ではない。順大で私の講義を受けている陸上代表の三浦龍司クンや体操代表の橋本大輝クンも先日、他の学生と同じように前期末試験に臨んだ。当然ながら、五輪選手だからといって例外は認められない。アスリートは競技のためなら、サラッと大変な努力をやってのけるのだ。

 スポーツは健康を害してまで、まして命と引き換えにやるものではないが、アスリートは命懸けで取り組んでいる。私たちができることは選手や五輪に携わる方々の健康を祈ることと、選手の最高のパフォーマンスを見届けることだろう。そして、心からのエールを送ろう。途中で試合がなくなるかもしれない、変更になるかもしれない、会場の応援がない、大事な人がそばにいない、異例だらけの五輪。だからこそ、夢舞台に立つ選手には努力の成果を発揮してほしい。頑張れ、日本。

 【略歴】1972年、福岡市生まれ。筑紫女学園高-順天堂大卒。陸上長距離選手として活躍。同大スポーツ健康科学部准教授を経て2019年から現職。スポーツ健康科学博士。同大陸上部女子監督。14年から同大女性スポーツ研究センター副長。

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