経産官僚の詐欺 背景にある組織のひずみ

 官僚への信頼を根本から損なう事件である。過去の不祥事に比べても悪質性が際立つ。

 経済産業省の20代のキャリア職員2人が国の新型コロナ対策の家賃支援給付金を詐取したとされる事件のことだ。2人は先週末に約549万円の詐欺罪で起訴されたのに続き、きのう約600万円を詐取した疑いで再逮捕され、懲戒免職となった。

 事件の対象となったのは、コロナ禍で苦境に立つ中小事業者のために税金から用意されたお金である。迅速に支払われるように申請手続きも簡略化されている。官僚としての専門知識を悪用して私腹を肥やしたのであれば、言語道断だ。

 事件では、1人の自宅に登記し、もう1人が代表取締役だったコンサルティング会社や、ペーパーカンパニーとみられる会社を利用した、とされる。2人は職場で証拠隠滅の相談もしていたともいう。

 キャリアとは省庁の幹部候補の職員だ。公共に奉仕する使命感と自らを律する倫理観は高度なものが求められる。にもかかわらず入省後間もない若手がこのような事件で逮捕、起訴されるのは前代未聞と言えよう。

 一義的には個人の資質の問題だが、採用や人材確保の面に課題はないのか、考えざるを得ない。まず思い当たるのは、経産省に限らず、キャリア官僚を志願する学生の減少が近年止まらない事実だ。一方で20代の退職者も急増している。

 内閣人事局の調査では、早期退職の意向がある30歳未満の官僚のうち、男性のほぼ半数、女性の約45%が「もっと自己成長できる魅力的な仕事に就きたいから」と答えている。若手が仕事に魅力を見いだせず、人材が民間に流れているとみられる現状は極めて深刻だ。

 もともと長時間勤務や国会対策といったストレスが強い職場である。それでも国の政策を動かしていく「やりがい」が激務を支えてきた面があろう。ここが崩れているのなら、看過できない。官僚本来の誇りとやりがいを取り戻さない限り、人材は離れていくばかりだろう。

 第2次安倍晋三政権以降、「政治主導」の名の下に官僚の人事権を首相官邸が握った。不本意な政策でも官邸の意向であれば従わざるを得ない。意見した結果、左遷された実例もある。政権への忠誠度が官僚の評価につながる組織的ひずみの解消は急務だ。

 一方、安倍政権下で一部の経産官僚が「官邸官僚」と呼ばれる側近として重用された。今回の事件の背景に、若手の経産官僚にまで自分たちは特別という誤ったエリート意識が生じていないか、検証も必要だろう。

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