秋葉原も真っ青? 「コピー商品天国」中国・世界最大の電気街に潜入

 「中国に、東京の秋葉原をモデルにした巨大な電気街があり、高性能なコピー商品が売られていると聞いた。実態を知りたい」。西日本新聞「あなたの特派員」に福岡県の読者から調査依頼が寄せられた。「コピー天国」として知られてきた中国。国際社会の懸念をふっしょくして外資を呼び込む狙いもあり、近年は知的財産権保護の強化に政府を挙げて取り組んでいるはず…。現地を訪ねてみた。

世界最大の電気街・華強北にあるビル「華強電子世界」=中国広東省深圳

 IT企業や電子製造業者が集まり、中国のシリコンバレーと呼ばれる広東省深圳。世界最大の電気街・ファーチャンベイはその中心部にある。

 1万を超すデジタル関連企業や問屋、小売店が集まり、「あらゆる電子部品が取引されている」と言われる華強北。ひときわ目を引く6階建てのビル「華強電子世界」に入ると、スマートフォンや小型カメラなどの電子機器やパーツの専門店がひしめいていた。

 館内のあちこちに、米アップル社の無線イヤホン「エアポッドプロ」にそっくりの品物が山積みされている。日本で買えば約3万円の商品だ。箱を手に取って眺めていると、女性店員が「それは150元(約2600円)。性能が高いこっちは260元(約4400円)。音質は悪くないよ」と試聴を勧めてきた。

アップル社製無線イヤホンのコピー版が山積みされた華強北の小売店=中国広東省深圳(写真の一部を加工しています)

 試してみると、周囲の騒音を減らすノイズキャンセリング機能も、ある程度有効だった。関係者によると、2016年に初代(第1世代)エアポッドが発売されて以降、コピー版が続々と生まれ、本物さながらに「改良」が繰り返されているという。

 いくつかの店を回ると、同じエアポッドのコピー版でも、15元(約260円)という激安品も。「四代(第4世代)」とフェルトペンで手書きした品もあった。今秋にも発売が予想される新商品を先取りしたもので、価格は150元。「深圳の工場で作っている。100個単位で仕入れたいなら1個73元(約1200円)で卸すよ」。こちらを業者と勘違いしたのか、男性店員がさらりと言った。

(左)アップル社製品のコピー版が並ぶ華強北の小売店。まだ発売されていないはずの「第4世代」(四代)の品物まであった(右)コピー版を試聴してみると、記者のiPhone(アイフォーン)に「××のエアポッドプロ」という表示が出た。正規品として認識しているようだ=中国広東省深圳(写真の一部を加工しています)​​​​​​

 試してみると、記者のiPhone(アイフォーン)に「××のエアポッドプロ」という表示が出た。コピー版だが、正規品として認識しているようだ。周囲の騒音を減らすノイズキャンセリング機能も、ある程度有効だった。

 ■モデルは秋葉原

 深圳はかつて漁村だったが、改革・開放路線を打ち出した鄧小平時代の1980年に経済特区に指定されると、香港に隣接する地の利を生かし、安価な電子部品や関連機器を製造する工業地区として発展。通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)、IT大手の騰訊控股(テンセント)、小型無人機ドローンの世界最大手DJIも深圳発祥だ。

さまざまな小売店がひしめく華強電子世界の内部。「偽造品の製造・販売を厳しく取り締まる」と書いた横断幕もあった=中国広東省深圳

 華強北は、深圳の中心部に秋葉原を参考に開発され、電子産業の集積地として急成長した。成長力の源泉となったのが「さんさい」と呼ばれるコピー商品。山寨は、中央の統制が及ばない「山中のとりで」という本来の意味から転じて偽ブランドを指すようになった。

 一から開発するのではなく、既存の技術を応用して安価で実用的な製品を生み出す-。深圳の発展に伴って技術力を高めた地元業者らが設計や生産を手掛けた山寨の携帯電話や電子製品が、深圳の工業地帯から華強北に流れ込み、非正規品や安価な模倣品を国内外に供給してきたのだ。

 そんな華強北も数年前から転機を迎えている。中国メディアによると、華強北の商業ビル48棟のうち4分の1が電子部品の販売をやめ、化粧品販売に業種を変更しているという。街を歩くと、化粧品や美容グッズの看板が目につく。

 中国ブランドの化粧品は日本でも2019年ごろから徐々に人気を集めるようになった。“本家”の秋葉原が電気街からサブカルチャーの街に変化し、日本の流行の先駆けとなったように、華強北の変化に目を凝らせば、中国の近未来も見えてくるかもしれない。

 ■続くいたちごっこ

 中国メディアによると、華強北産コピー版エアポッドの昨年の出荷数は、インターネット通販を含めて6億台を超えた。正規品の7倍以上の規模だ。米政府は「世界中で出回っている模造品の6割以上が中国由来だ」と非難する。

 知的財産権の保護は、習近平国家主席が参加検討を表明した環太平洋連携協定(TPP)のルールの一つ。内需拡大を軸に世界経済ともうまく連携させる「双循環」戦略を推進する習指導部は、汚名返上に向けて、知的財産権の侵害への罰則強化を図っている。今年6月には、権利侵害への罰金などを強化した改正著作権法を施行した。

アップル社製の無線イヤホンのコピー品を売る華強北の小売店の背後には、偽造品販売と知的財産権侵害の禁止を呼び掛ける横断幕があった=中国広東省深圳(写真の一部を加工しています)

 華強電子世界などの館内には「偽造品の製造・販売を厳しく取り締まる」と書かれた横断幕やポスターが掲げられていた。ただ、販売員たちは、まるで自分と無関係の警告と思っているかのようにコピー版の売り込みに懸命だ。「これはアップル社製品の偽造品ではないの?」と尋ねると「違うよ。どこにもアップル社製とは書いてないでしょ」と即答した。

 「上に政策あれば下に対策あり」と言われる中国社会。いたちごっこはまだまだ続きそうだ。(広東省深圳で坂本信博)

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