「F」のバッジ 届くはずはないけれど 野見山暁治寄稿「ぼくのオリンピック」

 あれは陸上の5千メートル、いや1万メートルだったか。トラックを何周も走り続ける。やたら足の長い3人の男に阻まれて、小柄な選手は前へ出てゆけない。作戦なのか。スタンドからブーイングが起こる。逆にジャパン、ジャパンの大合唱。

 口惜(くや)しくも村社(むらこそ)講平選手は表彰状に立てなかった。1936年のベルリン・オリンピックのワンシーン。あの健気(けなげ)な無言に、ぼくたちは声を嗄(か)らして応援した。

 待てよ、中学生だったんじゃないのか、ぼくは。いかにラジオの実況中継が臨場感を伝えたにしろ、そのとき、映像は見ていない。自分の中で膨らませて、まざまざと描いていたらしい。

 その当時の日本人の頭には、スポーツと言えば相撲ぐらいしかなかった。それに野球か。しかし僕の親父(おやじ)たちの口に上るほどには沸かなかった。...

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