【動画】興奮の群衆、無関心の路上飲み、緊迫する病院、自宅で…東京ルポ

 57年ぶりの国内夏季五輪は、新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言下で幕を開けた。23日、東京都内の新規感染者は1359人を数え、「第5波」の危機が一段と進む。1年延期、無観客、国民の賛否が割れたままという「異形の祭典」を迎えた首都。その表情を、空気を切り取った。 (前田倫之、山下真、一ノ宮史成、郷達也)

 午後8時5分。夜空に浮かび上がった巨大な国立競技場から「東京2020」開会を告げる花火が一斉に打ち上がり、周辺を埋めた群衆の興奮は一気に最高レベルに達した。

 「ようやくこの日を迎えた。日本勢はすごい記録を連発して、コロナ禍をぶっ飛ばしてほしい」と都内の会社員福山多恵子さん(49)。学校観戦が中止になった長男(11)と次男(6)を連れた世田谷区の生島隆男さん(43)は「無観客になったのは残念だけど、形が変わっても開催できてよかった」と語った。

 重なり合う五つの輪をかたどったモニュメント前には、スマートフォンを手に記念撮影の順番を待つ長い列が絶えず、花火大会さながら芝生に座り込む家族連れや友人グループも。道路規制が実施され、増員された警察官は「立ち止まらないで」と必死に声を張り上げたが、聖火リレーで大会組織委員会が腐心してきたはずの「密」回避は、ほぼ機能不全となった。

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 日中晴れた都心の最高気温は34度を観測し、街はじりじりした熱気に覆われた。渋谷のスクランブル交差点は、マスクを着けて額や首筋の汗を拭いながら往来する若者、買い物客でごった返した。

 夕方、「五輪は中止!」と主張する団体が登場した一方、渋谷駅前の大型ビジョンは五輪のニュース速報を断続的に流すものの、足を止めて見上げる人はまばら。路上飲みをしていた外国人男性に感想を尋ねても、「五輪? 興味ないね」とチューハイのロング缶を傾けるばかりだった。

 開会式の時間には大型ビジョンが消灯した。都の要請に応じず営業を続け、酒も提供する近くの居酒屋は満席状態。五輪中継よりも仲間との会話が楽しい様子で、会社員女性(25)は「コロナなのに五輪をやって、(菅義偉)首相は喜んでいるでしょうね」と笑った。

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 「20代男性。38・5度の発熱。せき、喉の痛み、頭痛あり」。開会式が順調に滑り出していたころ、八王子市の南多摩病院の救急救命士・八井聖子さん(41)は、救急隊から患者の受け入れ要請を受けた。新型コロナの疑いがあったが、病床にこれ以上の余裕がなく、別の医療機関を探してもらうことになった。

 地域医療を支える南多摩病院はコロナ専用病床23床を有しており、昨年2月から約300人の陽性患者を受け入れてきた。この日、一般病棟では病室のテレビを開会式に合わせる患者の姿も見られたが、看護師は「五輪の実感はない。いつもと同じです」と冷静。

 八井さんも「五輪で人の流れも増えていて、最大の感染の『波』が来るかもしれない」と複雑な表情を浮かべ、「私たちの仕事は患者の命を救うこと。今は精いっぱいやる。選手は選手で懸命に頑張ってほしい」と続けた。

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 下町情緒が色濃く残る中央区日本橋人形町。主婦の岡野真理さん(41)は自宅マンションで、長男睦樹君(5)、夫睦(もと  ちか)さん(46)と夕餉の食卓を囲みながら開会式に見入った。

 福岡市出身で、結婚を機に東京に移り住んで6年目になる。1年延期が決まる前は、一家で五輪の機運を高めるイベントにも参加してきた。「今は正直、ワクワクと不安が入り交じっている。でも、睦樹の記憶に残る五輪になってほしい」

 今大会には、2019年2月に判明した白血病から復帰した競泳女子の池江璃花子(21)が400メートルリレーに登場する。「また戻ってこられたのはすごいし、とてもうれしい」。睦樹君をみごもったころに乳がんが見つかり、妊娠6カ月で手術を受けた自身と重ね合わせ、エールを送った。

 夕方、資睦さんと近くの神社を詣でた睦樹君は手を合わせて願っていたという。「どうか、オリンピックが成功しますように-」

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