五輪で政権浮揚、道険し 世論分断、しぼむ楽観論「足引っ張るかも」

 東京五輪が23日、開幕した。東日本大震災からの「復興」を旗印に、大会を自らの政治的レガシー(遺産)にしようと準備を進めた安倍晋三前首相。後継の菅義偉首相もまた、五輪の成功を衆院選や自民党総裁選につなげる戦略を描く。だが開催都市の東京は新型コロナウイルス感染「第5波」の真っただ中。開催の是非を巡る国内世論の分断も深まり、低迷する支持率の回復にどれほどの効果があるのかは見通せない。

 「皆さんの活躍が多くの人々に夢と感動、勇気を与える。頑張れ、ニッポン」

 22日夜。首相は日本選手を応援する動画をツイッターに投稿した。そして迎えた23日夜の開会式。無観客の巨大スタジアムに、マスク姿の各国選手たちが入場する光景が全国のお茶の間に映し出された。

 1年延期された五輪について、首相が「人類がウイルスに打ち勝った証しとして開催する決意だ」と宣言したのは昨年10月、国会の所信表明演説だった。だが結果的に、感染をコントロールできないまま開幕を迎えることになった。

 政府関係者によると、閣僚や側近議員、官邸幹部らが年初から、何度も中止や再延期を相次ぎ進言した。首相はこれを突っぱね続けた。「ワクチン接種さえ進めば、感染は収まり『完全な形』で実施できる」

 楽観論はことごとく打ち砕かれた。ワクチン供給は海外頼みで接種体制もトラブル続き。変異株の流入を食い止める水際対策も後手に回った。1年半に及ぶ世界的なコロナ禍の中で、新規感染者数が最悪の水準に迫ろうとする状況での五輪開幕は、国際的に日本政治の「失敗」を印象付けることにもなった。

 「開催国なのにワクチン確保が遅れたのが、そもそもの間違い。首相の失策だ」。政府、与党内ではこうした見方が主流になりつつある。

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 今後の政権運営のシナリオも揺らぎかねない。

 東京開催が決定した2013年。安倍晋三前首相は「復興五輪」を掲げて招致成功をアピールし、4回の国政選挙に勝利した。コロナ禍で20年開催が困難になると、得意の外交力で主要国を説得し、1年延期に成功した。「五輪が政権の求心力の源泉だった」。安倍氏側近は当時、そう語っていた。

 菅首相も五輪を政権浮揚につなげる戦略は同じだ。17日には秋の総裁選出馬への意欲を初めて明言。五輪を弾みに政権運営の求心力を取り戻そうという意図が透けた。

 だが感染抑止を焦った強権ぶりや、ワクチン接種を巡る迷走への批判は根強い。自粛生活が続く国民には「なぜ五輪だけ特別なのか」との不信感が広がり、世論の分断も深刻化。メディアの世論調査では、内閣支持率が3割を切るところも出てきた。

 「日本選手が活躍すれば『五輪を開いて良かった』とのムードに変わる」(政権幹部)といった楽観論は日に日にしぼみ、「開催が政権の足を引っ張ることになるかも」(官邸関係者)との声も出始めている。

 (湯之前八州)

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