指針は「字体正しければ誤りでない」…とめ、はね指導続く理由

 習字のような「とめ、はね、はらい」ができていないと減点する小学校教員の指導について報じたところ、「字体(骨組み)が正しければ誤りではない」という手紙が西日本新聞「あなたの特命取材班」に届いた。文化庁も同様の指針を出しているという。この指摘に沿えば、漢字の正誤とは異なる基準で教員は減点していることになる。一体どういうことなのか。

 手紙をくれたのは、新潟県で国語の高校教員だった丸山力さん(66)。漢文学者の著書などで独自に研究し、「とめ、はね」と漢字の正誤は別問題だと気付いたという。

 現役のころ、入試の採点では、とめ、はねの差異で減点する同僚もいたが、「パートごとに採点の担当が決められ、口出しできなかった」と丸山さん。一方、研究内容を新聞に投書し、「とめ、はね」にこだわる表記があった辞書の出版社に手紙を書くなどの活動を続けてきた。辞書の表現は改まったという。

 その丸山さんが「決着した」と受け止めたのが、文化審議会国語分科会が2016年に出した「常用漢字表の字体・字形に関する指針」。指針は「細部が異なっていても骨組みが同じであれば誤りではない」と明記し、「木」の縦線の最後をとめてもはねても誤りではないなどと例示した。

 ところが、本紙が記事にした通り「とめ、はね」の差異で減点する教員は今もいる。文科省も学習指導要領で、こうした指導を肯定している。なぜか。

 「複数教科を扱う小学校の教員は漢字に詳しい人ばかりではなく、一つの採点基準が欲しいのだろう」

 著書で「とめ、はね」の問題を指摘している京都大名誉教授の阿辻哲次さん(中国文化史)はこう分析する。阿辻さんによると、印刷で主流の明朝体は中国の明代(1368~1644)で使われた木版印刷の書体がルーツ。彫りやすさから直線を多用した単純な字が好まれた。手書きは中国の書家、顔真卿(709~785)の楷書が模範とされてきた。阿辻さんは「今も日常の手書き文字は楷書体が一般的。印刷と手書きの漢字は長年、区別されてきたのだが」と話す。

 文化庁の国語調査官、武田康宏さんは教科書に使われる漢字の字形が統一されていく過程を教えてくれた。

 旧字体から現在の字体に見直されたのは1949年、内閣が告示した「当用漢字字体表」だった。目的は異体統合や略体の採用、点画の整理。出版社はこの基準に沿いつつ、独自の活字を教科書で使った。ばらつきが学校現場で問題視され、旧文部省は58年、出版社向けに通知を出し教科書で使う活字の統一を求めた。

 その後、パソコンが普及し、多様な手書き文字に親しむ機会はさらに減った。「印刷文字が社会に浸透していく中で、手書き文字の習慣や多様性が理解されにくくなった」と武田さん。

 現在の学習指導要領解説の国語編では漢字と書写の学習について「指導の場面や状況に応じて一定の字形を元に学習や評価が行われる場合もある」と明記。所管する文科省教育課程課は「文字を覚え始めた小学生が混乱しないよう、一定の字形をモデルにすることはあり得る」と説明する。

 こうして「とめ、はね」にこだわる教員の指導が広がる一方、国は当用漢字字体表でも、81年の常用漢字表(2010年改定)でも、手書きの漢字に幅があることを一貫して認めてきた。文字は時代で変化するものだろうが、学校の指導はこのままでいいのか。

 文化庁が2015年に実施した全国アンケートでは、16歳以上の男女約2千人のうち、「手書きでは、印刷文字の形通りに書く必要がない」と知っていたのは約32%にすぎなかった。最初は一定の形で漢字を覚えるとしても、いずれかの時点で「正解は複数ある」と習う機会を設けるべきではないだろうか。 (編集委員・四宮淳平)

 最初の記事は4月掲載

 漢字の「とめ、はね、はらい」に関する小学校の指導を巡る最初の記事は、4月4日朝刊に掲載した。「とめ、はね」ができていないと漢字ドリルは全てやり直し、テストは0点という小学1年の担任の指導が「厳し過ぎる」という保護者の情報提供が発端だった。

 指導について、ある保護者は「小学生は基本が重要。習っていないのと、知って省くのでは意味が違う」と担任を支持。大学教員の一人は国語の入試の採点で「とめがはねになっている場合は不正解」にしたといい、小学校教員は「とめ、はねを基準に減点するのは誤りだ」と指摘した。

 文部科学省教育課程課は、学習指導要領に「漢字の指導においては、学年別漢字配当表に示す漢字の字体を標準とする」とあり、漢字テストや書写では配当表通りの「とめ、はね、はらい」が求められるとの見解を示した。実際にどこまで減点するかどうかは「各校の判断」と説明した。

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