「僕が見せられる夢はここまで」五輪を去る内村が失っていないもの

 取材エリアから去る直前、内村航平は少し寂しげな表情で言葉をつないだ。

 「僕が見せられる夢はここまでかな」

 個人総合から種目別鉄棒に転向して臨んだ「キング」の4度目の夢舞台はあっけなく終わった。

 冒頭にH難度の「ブレトシュナイダー」など三つの離れ技を成功させた直後だった。D難度のひねり技で右手が離れ、背中からマットにたたきつけられた。「何やってんだ、ばかって感じ」。13・866点に終わり、その時点で上位8人による決勝進出の可能性は消滅した。

 19歳で出場した2008年北京五輪の個人総合で銀メダル。同種目の2連覇と団体との2冠を達成したリオデジャネイロ五輪後に相次ぐ故障に苦しんだ。20年2月、「6種目やってこそ体操」の信念を捨てて鉄棒への専念を決めた。それでも4個目の金メダルは遠かった。「もう前みたいに練習してきたことをそのまま出せる能力はないんだなと。大舞台でこそ出せていたのに」と自嘲した。

 後輩たちは団体で予選1位通過。「彼らが主役」と世代交代を自覚しながら現役引退についてははっきりと否定した。「体操を永遠にやめないかもしれない。引退することが終わり方の正解なのかと考えると違うと思う」と語った。

 理想は「絵画を見ているような、美しい景色を見ているかのようだと思わせる」体操だという。特に建築物に関心があり、「姫路城には勝てない。一番美しいと思う」。10年ほど前に訪れ、優美なたたずまいに言葉が出なかった。「それが『本物』だと思う。フィギュアスケートの羽生(結弦)君の演技も近い」。長い年月をかけて一工程一工程を丁寧に積み上げる築城の作業のように、体操を極める探究心は失っていない。

 「(五輪の個人総合を)2連覇してもまだまだだと思わせてくれる。これだけやってきてもまだわからないことや失敗することがあると思うと、まだ面白さしかない」。揺れ動く心とも闘いながら、まだ見つかっていない「理想」を求めていく。 (伊藤瀬里加)

関連記事

長崎県の天気予報

PR

PR