あの日の春秋:声なき被害者救う手だてを(2005年7月26日)

昔むかし、伝説の布があった。火浣布(かかんぷ)。「火に入れても燃えずに白くなる」。江戸時代に科学者、鉱物学者としても名をはせた平賀源内は、石綿を使って火浣布を作り、売り出した▼西洋名・アスベスト。これを使った織布はローマ時代から作られ、珍重されてきた。アスベストはギリシャ語からきている。「消し去ることができない物」という意味があるそうだ。アポロンの神殿にも使用されている▼燃えない、減らない、腐らない。繊維状の鉱物だから加工もしやすい。「奇跡の鉱物」とあがめられた。布だけでなく、建物の断熱材や耐火材としてもおあつらえむきだ▼20世紀には世界中で大量に使われた。建材を中心に最盛期の製品数は3千を超えた。「奇跡の鉱物」は日本では今「静かな時限爆弾」と呼ばれる。メーカー従業員や工場周辺住民らの、死に至る健康被害が噴き出し、恐怖のチクタクを刻む▼繊維を吸い込むと中皮腫や肺がんを引き起こす。発症するまでは30~40年かかるらしい。大量使用の時期からみて発症はこれからピークに向かう。研究者は死者を数万人とも10万人とも推測する▼「時限爆弾」のセットに国も加担した。そういわれても仕方がない。欧州では1980~90年代に使用を禁止している。日本は全面禁止にはしていない。危険性を政府は30年前から認識済みだったことが分かった。似てないか、薬害エイズを生んだ構図と。(2005年7月26日)

 論説委員から 建設現場でアスベストを吸い、肺がんなどの病気になった元労働者らが損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は5月、国と建材メーカーの責任を認める判決を言い渡した。国は和解に合意し、訴訟を起こしていない被害者にも給付金を支給する制度を創設する。大きな前進だが、なお救済の網からこぼれる人もいる。国は再発防止とともに、声なき被害者を救う手だても早急に整えるべきだ。(2021年8月1日)

関連記事

PR

開催中

BANKO会展

  • 2021年11月20日(土) 〜 2021年11月30日(火)
  • こっぽーっとギャラリー

PR