父はなぜ「赤い背中」の被爆者に耳を傾けたのか 英軍人の娘が答えを探した長崎の記録映画

【東京ウォッチ】

 長崎で郵便配達中に被爆し、原爆の熱線で焼かれた「赤い背中」の写真で世界に知られた谷口稜曄(すみてる)さん(2017年に88歳で死去)と、元英国軍人で戦後は著作活動を続けたピーター・タウンゼントさん(1914~95)の交流を追ったドキュメンタリー映画が完成した。ピーターさんの長女が長崎を訪ね、2人の残したメッセージをたどる物語で、タイトルは「長崎の郵便配達」。監督の川瀬美香さんは「戦争を知らない世代が戦争体験をどうやって継承していくか。考える一助になれば」と話す。

 赤い背中の写真を掲げて精力的に原爆の証言活動をしていた谷口さんを、ピーターさんは82年に長崎で取材した。84年、映画と同じ題の著書を英語とフランス語で出版し、直後に邦訳され教科書にも載ったが、いったん絶版となった。

 ピーターさんの遺品から見つかった取材テープを基に足跡を追い、著書に込められた2人の思いをひもといていく今回の映画は、ピーターさんの娘で元モデルのイザベル・タウンゼントさん(60)が主演。ロケは谷口さんが亡くなった翌18年8月、長崎で行われた。初盆を迎えた故人を見送る「精霊流し」で谷口さんの家族と一緒に精霊船を引き、被爆体験の証言ビデオにも触れている。

 監督の川瀬さんは、ピーターさんの本の復刊運動に関わっていた知人を通して、14年ごろに谷口さんと知り合った。「核兵器をいまだに持ち続けている国があることが許せない」と、静かに話す姿が忘れられないという。15年春、核拡散防止条約再検討会議に合わせて訪米した谷口さんに同行し、核兵器廃絶を訴える姿を映像に収めた。その後も長崎などで繰り返し面会したが、「原爆」という重いテーマに気後れし、映画化に踏み切れないでいた。

 迷いは、イザベルさんとの出会いが断ち切ってくれた。英空軍のパイロットとしてナチス・ドイツとの航空戦「バトル・オブ・ブリテン」に参戦したピーターさんは戦後、なぜ被爆者を描いたのか-。イザベルさんも、その問いに迫ろうとしていたのだった。川瀬さんは決断した。「子を持つ一人の母親としてイザベルが父たちの戦争とどう向き合うのか。その姿を通してなら、原爆を知らない私にも描けるものがある」

 映画の撮影には西日本新聞も協力。谷口さんの半生を描いた聞き書き「原爆を背負って」の取材資料を提供した。谷口さんは生前、本紙の取材に「ピーターは話を熱心に、時折涙ぐみながら聞いた。私の思いを本にし、海外で伝えてくれたことをうれしく思う」と語った。

 映画は97分、全編英語で日本語字幕付き。長崎原爆の日の8月9日、長崎県美術館で中高生を対象に無料上映会が開かれる。今秋の一般公開を目指す。

(久知邦)

▷映画「長崎の郵便配達」学生制作予告編(1)はこちら
▷映画「長崎の郵便配達」学生制作予告編(2)はこちら

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