「全国一律の宣言発出」議論1時間、首を縦に振らなかった首相

 首都圏発の新型コロナウイルス「第5波」がかつてない勢いで広がる中、政府は専門家の中に求める声が強かった全国一律の緊急事態宣言ではなく、熊本など8県を対象にしたまん延防止等重点措置の追加適用を選択した。「第4波」で、経済とのバランスを考慮し初めて重点措置を使った際などは奏功せず、感染拡大を許して後手に回った「苦い経験」も。今、猛威を振るう感染力の強いデルタ株を、重点措置で食い止められるかは分からない。

 5日夕、官邸で記者団の取材に応じた菅義偉首相は重点措置追加に関し「感染者数、病床の状況を総合的に判断する形で8県を指定した」と説明、宣言は「全国的にということは考えていない」と明言した。

 専門家や医療界の意向は異なった。3日に首相と面会した日本医師会の中川俊男会長は「全国的な緊急事態宣言の発出により、例外なく県境を越えないことなど、強力な感染防止対策が必要だ」と求めた。政府の感染症対策分科会の尾身茂会長も4日の衆院厚生労働委員会で、宣言拡大を「当然、議論の対象とすべきだ」と答弁していた。

 政府側の交渉窓口としてこれらの訴えをくみ取っていた西村康稔経済再生担当相は4日夕、コロナに関する閣僚会合の席で首相に向き合い、「宣言」案も進言した。協議は1時間を超えて続いたが、首相が首を縦に振ることはなかった。

 なぜか―。全国一律の宣言は、感染を制御できている地域の社会経済活動まで不必要に弱めてしまう。「自粛疲れ」「緊急事態慣れ」と称されるムードがはびこり、その実効性も回数を重ねるごとに薄れているのは明らか。首相周辺は「昨春の1回目の宣言時は、コロナは未知のウイルスで他に取るべき手段がなかった。あれから実態と特性がある程度明らかになり、きめ細かい対応を取れるようになったのに、一律でやるのは乱暴で非現実的だ」とする。

「二度あることは三度ある」

 問題はひとえに、今回の選択が「第5波」のカーブを下降局面に転じさせられるか否かだ。

 新規感染者数は5日、全国で1万5千人を突破し、東京都は過去最多の5042人に。指標を見ると、24都道府県が4日までに「ステージ4(爆発的感染拡大)」相当となった。デルタ株への置き換わりも進み、国立感染症研究所の推計では関東で約9割、関西で6割を占める。「感染者が減る要素がない」(東京都北区保健所の前田秀雄所長)という状況だ。

 高齢者向けなどワクチン接種の一定の進展で抑えられていた重症者数も再拡大し、4日の全国重症者は823人を数え、380人前後だった7月中旬から2倍以上に。医療提供体制が悲鳴を上げ始めている。

 東京五輪の開幕を1カ月後に控えていた6月21日、政府は沖縄を除く9都道府県で宣言解除し、重点措置に移行したが結局、その後に4回目の宣言発出に追い込まれた。重点措置の効果を疑問視する声は根強く、「第4波」時の失敗も含め、「二度あることは三度ある」との悲観的な未来を打ち消してくれる材料は少ない。

(前田倫之)

 まん延防止等重点措置 新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐための緊急事態宣言に準じる措置。2月施行の改正特別措置法に新設された。発令する際は専門家の意見を踏まえ、首相が都道府県単位で対象地域と期間を定める。知事は市区町村単位などに範囲を絞り、飲食店などへの営業時間短縮の要請・命令の権限を持つ。命令に応じなければ、20万円以下の過料を科すことができる。

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