70年近く心にしまった体験 加害の記憶に向き合う難しさ

復刻連載・忘却の罪 油山事件と慰霊(5)

 火災で亡くなる1年前の夏、中島徳美(のりみ)さん(享年92)=福岡県大野城市=は福岡市の油山を訪れた。捕虜に軍刀を振り下ろしたあの日以来、69年ぶりだった。

 宅地化が進んで地形が変わったせいか、両手に残る感触とは裏腹に、現場の記憶はおぼろげだった。結局、斬首した場所は分からないまま、中島さんは虚空に手を合わせた。

 その姿に、一緒に歩いた記者の私は「このまま忘れられていいのか」と記事に書き残すことを決めた。

 〈善いにしろ悪いにしろ事実を明らかにし、戦死者の有様を出来得る限り公正に国民に殊に遺族に知らすべきではあるまいか〉

 中島さんも獄中手記にこうつづっていた。

 一方で、70年近くも自身の体験を心にしまったままにしてきた。加害の記憶と向き合うことがいかに難しいか‐。それを「慰霊」という形で乗り越えようとした矢先の不幸だった。...

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