「生体解剖事件」戦犯となった医師の悔い 親類が企画、ドラマ化

 第2次世界大戦末期に福岡市の九州帝国大(現九州大)医学部で起きた米国人捕虜に対する「生体解剖事件」を題材にしたドラマが13日夜、NHK総合で放送される。原案は、戦犯として死刑判決(後に減刑)を受けた元助教授のめいが刊行したノンフィクション小説。NHK職員のその息子が福岡の事件関係者に会うなどして、6年がかりで企画を実現させた。「しかたなかったと言うてはいかんのです」。手術に関わったことを生涯悔やみ続けた元助教授の言葉を、そのままタイトルとした。

 事件当時助教授だった鳥巣太郎さんは詳しい事情を知らず、教授から「手伝い」を頼まれて手術に参加した。ただ教授は逮捕直後に自殺し、鳥巣さんが首謀者として扱われたという。

 手術が行われた解剖実習室には医師や軍人ら十数人が集まり、肩に銃創がある米兵が歩いて入室し、麻酔で眠らされた。教授のメスで胸部が切開、肋骨(ろっこつ)が切断され、片肺が切り取られた。米兵は救命措置が取られることもなく、絶命した。

 「これは実験手術だ」。鳥巣さんは気付き、数日後、教授に中止を進言したが、「軍の命令だ」と聞き入れられなかった。もう1回は手術に加わったが、その後の2回は用事をつくって参加しなかった。

 鳥巣さんのめいの熊野以素(いそ)さん(77)=大阪府=は都内に住んでいた幼少期、巣鴨プリズン(東京)から一時外出を許された「巣鴨の伯父ちゃん」とよく食卓を囲んだ。鳥巣さんは1954年に出所し、福岡市に外科医院を開業。正月は家族ぐるみで小旅行を楽しむなど、鳥巣さんが93年に85歳で亡くなるまで交流は続いた。

 高校の社会科教師だった熊野さんは95年から裁判資料や伯父、伯母の手記などを読み込んだ。「たとえ焼き殺されても抗議すべきだった」「(戦争中だから)しかたなかったと言うてはいかんのです」…。伯父は、軍や教授の命令に逆らえず医の倫理を踏み外したことを晩年まで悔いていた。

 熊野さんは2015年、伯父の視点から描いた「九州大学生体解剖事件」(岩波書店)を出した。それを読んだ次男の律時(のりとき)さん(47)=同=は事件について一切語らなかった大伯父の思いに触れ、衝撃を受けた。

 「これは戦争中のひどい出来事という昔話にとどまらない。私たちは、大きなあらがいがたい流れの中で『もう止められない』『仕方ない』と目をつむり、それがとんでもない結果を生み出す。今に通じる話だ」

 朝の連続テレビ小説などの「ドラマ畑」を歩んできた律時さんは、医学生として事件に関わった東野(とうの)利夫さん(今年4月に95歳で死去)を福岡市に訪ねるなどしてイメージを膨らませた。減刑の理由や獄中での人間模様など明らかになっていないことも描写するため「事実に基づくフィクション」の形にし、制作統括として企画や台本作りを担った。

 助教授役と妻役は、いずれも福岡県出身の俳優妻夫木聡さんと蒼井優さん。2人とも台本を読むまで事件を知らなかったが「今やるべき作品だと思いました」と話しているという。放送は午後10時から。

 (下崎千加)

 九州大生体解剖事件 1945年5~6月、九州帝国大医学部で、熊本、大分両県境に墜落し捕虜となった米軍機B29搭乗員8人に、外科医らが西部軍立ち会いの下で実験手術を施し、全員を死亡させた。片肺を切除しても生きられるか、海水は代用血液として有効か、などの確認が目的だったとされる。執刀した外科教授は独房で自殺。48年の横浜軍事裁判で軍関係者9人と九大関係者14人が絞首刑や終身刑などの有罪判決を受けた。50年に恩赦で減刑され、死刑になった者はいない。

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