「難民」ではない彼らの未来開く 企業の橋渡し担うNPO代表

東京ウオッチ

 紛争や迫害から日本に逃れてきた「難民」が持つ情熱や能力に着目し、日本企業で働けるよう橋渡しする活動に取り組んでいる女性がいる。NPO法人「WELgee(ウェルジー)」代表の渡部カンコロンゴ清花さん(30)。夫でコンゴ民主共和国出身の共同創設者と一緒に、難民ではなく、彼らが高度な「人材」として新たな人生を切り開いていける道をつくり続けているという。彼女自身の歩んできた道と、望む未来を語ってもらった。

 ―ウェルジーは、具体的にどんな活動をしているのですか。

 「日本にやってきた難民の雇用確保に伴走しています。難民といっても、彼らの多くは正確には『難民認定申請者』です。日本は先進7カ国で最も認定数が少ないためです」

 「ただ難民認定を待つのではなく、『人材』としての未来を切り開く道を目指しています。紛争や迫害によって母国には帰れない難民ですが、情熱と才能を併せ持った人たちばかりです。多くはアフリカや中東からの若者で、元々は起業家、他国への留学経験者という高度人材もいます。その豊かな経験を生かせないかと考え、キャリアプログラム『Job Copass(ジョブコーパス)』という事業を始めました。個別面談を重ね、企業側のニーズも探りながらマッチングをしています。就職後もサポートして、安定した在留資格への切り替えを後押しします」

 ―難民に着目したきっかけは何だったのですか。

 「幼い頃から世界の格差や、途上国支援に興味を持っていました。大学生の時、ゼミの活動でバングラデシュに行きました。首都ダッカで過ごした後、私は一人、リュックを背負って12時間バスに揺られ、先住民族が暮らすチッタゴン丘陵地に向かいました。滞在中、先住民族と政府軍に後支えされた入植者との武力衝突が起き、多くが負傷しました。戒厳令が出ました。国家が守ろうとせず、頼ろうとしても逆に弾圧を受けてしまう国民が存在する現実を、目の当たりにしました。大学を休学して、国連のインターンシップに参加しました。そこでは、国家が持ち出す『内政干渉』の論理を国際機関が超えられず、本質的な課題には関与できない構造を知り、限界を感じました。学生の私には何もできず、もやもやを抱えて日本に帰ってきました」

 ―その体験が原点になったのですね。

 「いえ、それから大学院で『人間の安全保障』を学ぶ日々を送るかたわら、日本で暮らす難民認定申請者たちに出会ったことが転機となりました。24時間営業のファストフード店、終電が過ぎた駅、モスク、教会などを訪ね歩きながら、彼ら、彼女らとの共同生活が始まったのです。1Kの部屋での雑魚寝です。話をすると、彼らがものすごいポテンシャル(潜在力)と可能性を持っていることに気付きました。それを伸ばし、彼らの本来の希望を日本で実現してもらい、母国や世界で活躍していく未来を描けないか、支えられないか。そう考えて、ウェルジーを立ち上げました。当初の活動資金は老人ホームのアルバイト代です」

 ―どのように難民を集め、マッチングはどこまで進んでいるのですか。

 「今は口コミが多いです。『キャリアを生かすなら、ウェルジーに連絡してみたら?』と、就職に成功した先輩から後輩に伝えてもらう機会もつくっています。マッチング第1号は、アフガニスタン出身の若者でした。ITベンチャー企業に就職しました。ナイジェリア出身の男性はヤマハ発動機に就職しました。新興国へのビジネス展開を担う中核社員になっています。これまで190人の難民たちに出会い、うち10人が採用されました。ニーズを合わせるのは非常に難しいですが、難民と企業の双方に伴走できるよう心掛けています」

 ―国会でも難民問題はクローズアップされました。

 「難民と聞けば、かわいそうな人と想像しますよね。政府からは、いかに悲惨な暮らしで、母国に帰ったら危険かという証明を求められる上、何年にもわたる不安定な生活で身体も心も疲弊します。その先に見える難民認定の救済は、わずか1%程度です。しかし、その針の穴以外にも、人によっては日本で生きていける道がある。日本企業に正規採用されれば、難民認定申請中の不安定な在留資格から、就労のための在留資格に切り替えることができます。既に3人の切り替えが認められました。日本で安心して暮らせる第一歩になるのです」

 ―渡部さんは、どんな社会像、国家像を描いていますか。

 「難民が安定した在留資格を手にし、希望を持って日本社会で生きることができる。企業は難民の持つ個性を生かし、成長につなげることもできる社会を思い描いています。難民申請する、認定されない、しかし帰れない、また申請するしかないという『負のループ(循環)』に陥ってしまう前に、その人の可能性を生かしていけたらいいです。もちろんこの方法も完璧ではありません。就職に有利なスキルがない人もいますし、仮放免の人たちはそもそも就労許可がありません。こういった人たちの突破口を見いだすのはまだこれからです。いま、私たちと一緒に就職を成し遂げてきたパイオニアたちが活躍しています。彼らが企業の成長に貢献してくれれば、また新しい展開があるかもしれません。難民の中に、プロフェッショナル人材がいるなんて誰も思っていませんよね。事例を一つ一つ積み重ね、難民を生かす政策、制度化につなげていけたらいいですね」

 ―ところで、コンゴ出身の男性と結婚されていますよね。

 「そこ気になりますよね。夫の話をしたらまだまだインタビューは続きますよ(笑)。実は、私がバングラデシュから日本に帰ってきて、難民を訪ね歩いていた頃に出会いました。そして、一緒にウェルジーを立ち上げたメンバーです。夫は難民申請は取り下げましたが、世界中で安定して生きる場を今は二つ持っているんですよ。米国永住権(グリーンカード)と、日本の在留資格『配偶者』です。難民認定以外の未来があるんですよ。方法は別になんでもいいんですね。だからみんなで模索したい。その人が持っている可能性、力が発揮できたら、人生は切り開いていけるということを、私も当事者である仲間たちから日々教えてもらっています」

 (聞き手・古川幸太郎)

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