あの日の春秋:健さんが九大生に残した言葉(2001年5月10日)

おととい、福岡市中央区の九大六本松校舎で、東映社長の高岩淡さんの講演があった。テーマは「映画『ホタル』の製作を終えて」―▼総合講座「社会と学問」の一環として、九大OBの高岩さんが招かれた。教室は300人近い学生で満員。講演の前に試写会もあった。戦争の傷痕と夫婦愛を描いた映画の感想を、隣に座った1年生に尋ねたら「感激しました」▼もっと感激させる出来事が、講演の終わりごろに起きた。「主演した高倉健さんがたった今、到着されました」。どよめきと歓声。一部にしか知らされていなかった。たちまち、教室の窓も学生で鈴なりになった▼スクリーンではなかなか見られない大きな笑顔で、学生の質問に答えた。質問に詰まると「しっかりせんか」。演技をほめられると「コーヒーをおごらせてください」。何をしゃべってもどっと沸いた▼「人生で大事なことは?」「別れるのがつらくなるほどの人と、たくさん出会うこと…。出会えるように、懸命に生きることだと思います」。高校生も特別に聴講していた。「『ホタル』で一番訴えたかったのは何ですか?」「戦争の犠牲者がいて、今の日本がある。そのことを感じてほしい。それだけです」▼若い人にもこの映画を見てほしい。そして、この国や自分の人生を、考えてほしい。そんな高倉さんの思いが伝わってきた。この間およそ30分。それ自体が一編の映画のようだった。(2001年5月10日)

 特別論説委員から  また巡り来た終戦記念日。私たちの国の来し方をかみしめ、行く末を思う日だ。そして今、何ができるかを考えたい。その道しるべとなる言葉を健さんが、郷里・福岡県の若者に残してくれた。「戦争の犠牲者がいて、今の日本がある」(2021年8月15日)

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