内水氾濫防ぐ、排水ポンプ操作員の死 背景に使命感頼みと高齢化

 記録的な大雨に見舞われた佐賀県小城市の牛津江排水機場で8月、男性(75)が亡くなった。支流の水が住宅地にあふれる内水氾濫を防ぐため、排水ポンプで川に流す「操作員」だった。市民が避難する一方で川に向かい、一昼夜現場に張り付くこともある操作員は危険と隣り合わせ。高齢化も課題だ。「ひとごとではない」-。現役の操作員は死亡事故を受け、「人ありき」の今のやり方に改善を求める。1日は「防災の日」。

 8月12日昼ごろ、福岡県久留米市城島町の男性(51)は雨がっぱをかぶり、ヘッドランプを装着した。大雨の中、向かった先は筑後川。住宅や田畑の間を縫うように流れる水路が筑後川に合流する水門を閉じるためだ。筑後川の水位が上昇すると、水路に逆流し氾濫する危険が高まる。

 70代後半まで務めた前任者に誘われて、操作員になって21年。市では4年連続で浸水被害が発生し、ここ数年「出番」が増えた。

 15日まで連日、水門のそばにある小屋で1時間置きに水位を記録。有明海の潮の満ち引きも踏まえ、水の流れに目を凝らし、水門の開閉を繰り返す。合間に自宅に戻り食事をして、また小屋へ。夜は小屋近くの堤防の上に止めた車で仮眠した。

 「今回は長雨で体力的にしんどかった」。しみじみ語る男性。死亡事故について「責任感が強かったのだと思う」と胸を痛める。

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 佐賀県警と国土交通省武雄河川事務所によると、男性操作員は14日午後10時20分ごろ、排水機場で木くずなどごみを取り除く機械に体を挟まれているのが見つかった。ごみは支流からポンプに水を引き込む箇所にたまり、除去しないと故障の原因になる。ごみを取り除く作業中の事故とみられる。

 排水機場は国交省が設置し、小城市が男性を含む3人に操作を委託。男性は11日昼ごろから対応に当たっていたという。操作員への報酬は自治体ごとに決められ、「ごくわずか」と語る操作員もおり、「負担は重く、使命感に頼る部分はある」(行政関係者)。江里口秀次市長は記者会見で「二度と事故が起こらないよう安全対策を徹底したい」と述べた。

 武雄河川事務所によると牛津川を含む六角川水系に排水機場は60カ所。操作員は半数ほどが65歳以上で、80代もいる。「土日祝日、夜間も関係なしで後任が見つからない」(事務所)。国交省によると、全国の操作員のうち60歳以上が占める割合は2009年度の53%から15年度は59%に増えた。

 3月に発足した社会資本整備審議会(国交相の諮問機関)小委員会では、操作員の安全確保策などを議論している。遠隔での制御・監視が議題に上るものの、操作員が現地に向かうのを前提に到着前や退避した場合の活用を想定。操作員を置かない本格的な遠隔操作の実現は見通せない。

 「高齢になった時、限界がくる。技術を活用して操作員の負担軽減の仕組みを真剣に議論してほしい」と久留米市の男性は訴える。多災害時代を迎え「住民を守らねば」。重責を負い、不安は尽きない。 (山口新太郎、平峰麻由、梅沢平)

担い手確保は不可避

 九州大の小松利光名誉教授(河川工学)の話 河川の状況に応じた操作や想定外の事態に対応するため、既存の排水機場や水門の多くは操作員に頼らざるを得ないのが実情だ。遠隔技術の活用は進んでいるが、自然災害が相手である以上、全てに対応できる保証はない。操作員の担い手不足や高齢化が進み、今は過渡期にある。遠隔技術の併用や待遇面の改善など、担い手確保の問題は避けては通れない。予算は限られており、どう優先順位を付けるのか、治水対策全体の中で議論を急ぐ必要がある。

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