菅首相退陣へ 国民がノーを突き付けた

 新型コロナ禍に多くの国民が苦しむさなかに、いったい何をやっているのか。政権党の迷走は悪い夢を見ているようだ。

 菅義偉首相がきのう、自民党総裁選への不出馬を明らかにした。事実上の退陣表明である。

 週明けに予定していた二階俊博幹事長の交代を軸とする党役員人事が行き詰まり、総裁再選が見通せなくなった結末だ。

 「最優先はコロナ対策」「国民の命と健康を守ることが責務」と繰り返しながら、事態収拾のめどすら立たない中で、政権を投げ出すことになった。

 そもそも総裁選が目前のこの時期に行う役員人事に大義はない。対抗馬に名乗りを上げた岸田文雄前政調会長が党役員任期などの改革を打ち出したため、二階氏の交代で争点を封じようという意図が見え見えだった。

 この人事に絡め衆院解散の可能性まで探ったことも、岸田氏優勢の流れが生じ始めた総裁選の先送りを狙った策にほかならない。岸田氏が出馬を表明して以降の菅氏の動向は、権力者の座を守るための個利個略ぶりが露骨に過ぎた。

 ■人事権に頼り墓穴を

 人事こそ、菅氏にとって権力の源泉だった。政治家でも、官僚でも、冷遇をちらつかせて、あるいは左遷を明言して異論を封じてきた。さらには日本学術会議に対してまで、疑義が拭えない任命権を主張し、政権に批判的な学者の排除を図った。

 今回も人事権者の力を振りかざせば、自らに不利な局面を打開できると考えたのだろう。

 しかし、今は平時ではない。衆院選を目前に、災害級と呼ばれる感染拡大と、政府のコロナ対策を巡る世論の不満が逆風となり党に吹き寄せている。

 唐突に出てきた役員人事という首相の悪手を容認すれば、自民党全体に対する有権者の不信につながる。そのように党所属議員が考えるのは当然だろう。

 かくして菅氏は党内求心力を回復させるすべを奪われ、その揚げ句の不出馬だ。自ら墓穴を掘ったと言わざるを得ない。

 こうした自民党内の空気さえ読めなかった菅氏は、多くの国民が直面する苦境、それに伴ういら立ち、不信といったものに向き合えていないのではないか。ここにこそ問題の根っこがある。

 先週の記者会見で新型コロナについて「明かりは、はっきりと見え始めている」と述べた菅氏の言葉は、国民にとって強い違和感を伴うものだった。

 自民党内で急速に進んだ「菅離れ」は、衆院選を控え、とりわけ世論に敏感になっている衆院議員を介し、国民が政権に「ノー」を突き付けたに等しい。

 ■コロナ対策に専念を

 感染しても入院を含めて十分な医療が望めない。営業時間短縮や外出自粛要請が続き、明日をも知れない苦境に立たされている業界があり、経営者もいる。

 菅内閣が退陣しようと、政府のコロナ対策に切れ目があってはならない。

 菅氏は不出馬の理由を「コロナ対策と総裁選は莫大(ばくだい)なエネルギーが必要で、両立できない」と語った。この理屈は党役員人事にまい進していた直近の姿からかけ離れている。それでも「コロナ感染防止に専念したい」との言葉は守ってもらいたい。残り任期中の最低限の務めだ。

 一方、自民党の責任も大きい。第2次安倍晋三政権以来、長く首相官邸が主導する「政高党低」の力関係に甘んじ、菅政権でもコロナ対策での不手際や根拠なき楽観論を許してしまった。深く自覚するべきだろう。

 新総裁が誕生すれば世間の空気も変わると考えているようでは、逆風の強さは変わるまい。

 まずは菅政権の失敗の検証が総裁選の重要な論点となるべきだ。「衆院選の顔」に誰が有利かではなく、国民の不安や不信の解消に軸足を置き、コロナ対策をはじめとする政策論争に徹することが求められる。国民不在の権力闘争に走る余裕などない。

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