中国から来日したばかりの私 支えだったカレーライスと志村さん

麗しき夢 【19】

(2020年4月16日掲載、肩書などは当時)

 生真面目で規律やモラルを守る。日本人が世界でも誇るべき美徳だろう。連帯感だって強い。一方で物事をついマイナスに捉えがちな面があることも否定できない。中国から来日して間もない頃、ある試合でエラーをした選手が自分を責めて泣いていた。スポーツは本来楽しいはずなのに、不思議でならなかった。

 テレビのバラエティー番組を見て冗談を覚えるようになったのも、落ち込んだ選手を励ますためだった。「しょうゆ、ラー油、アイラブユー」のギャグが印象的だった志村けんさんの「だいじょうぶだぁ」はお気に入りの一つで、放送日の月曜日が待ち遠しかった。

 度の強い眼鏡をかけたゴルフのキャディーさんやマッサージ師などに扮(ふん)した「ひとみばあさん」も表情が豊かで、お客さん役のタレントをずれた言動で散々困らせるのが面白かった。振り回される方も絶妙で、日本語がよく分からなかった私も声を上げて笑ったものだ。当時日本の食事に慣れる前で、カレーライスばかり食べていた私こそ、異国での張り詰めた気持ちや寂しさを志村さんのコントで紛らわせていたのかもしれない。人々が不安を抱えて家にこもる今こそ、あの日のような、どこかほっとする「笑い」が必要なのに、ウイルスの犠牲となった非情さを思う。

 芸能界とスポーツ界。分野は違っても、根っこのところで通じている。例えば初対面同士の人がいるとする。誰だって「壁」を持っているだろうし、お互いに相手を観察し合っている。そこで、こちらが「こんにちは!」と元気よくあいさつをしてみる。その言葉に相手が反応すれば、理解への一歩になり得る。コミュニケーションが円滑になることだってある。スポーツでは審判との相性にもプラスに働くケースがある。その辺りの、いい意味での要領を覚えることも大事だ。

 今はチームを預かる監督として、どんな選手でも指導しなければいけない。戦術の意図を理解させ、チームとして意思統一を図るためにも、選手が15人いれば15通りのアプローチが求められる。伝える表情や表現も同じではない。永遠の女優、役者みたいなもの。選手のために自分の役回りを演じるのが使命なのだ。「何十年も、一つのやり方でやってきた」と口にする指導者には賛同できない。選手や時代によって手法は変化していく。世界各国のメディアも訃報を大きく伝えたと聞く。「笑い」で世代や国境を超えて愛された志村さんのようにソフトボールもそうありたい。

 外出を最小限にとどめ、自宅で過ごす日が続く。先日は「天才!志村どうぶつ園」の特番を見た。チンパンジーと同じ目線で戯れる「志村園長」の優しい顔が胸に染みた。人間と動物。話し掛ける言葉を理解できなくても、心は届く。面識がなかった私がそうだったように。志村さんのバラエティーで久々に笑わせてもらいたかったのに、なぜか涙が止まらなかった。 (ソフトボール女子日本代表監督)

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

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