代表監督も揺れている それでも五輪あってほしい…背中押された光景

麗しき夢 【37】

(2021年2月20日掲載、肩書などは当時)

 生まれ育った中国では毎年、「春節(旧正月)」の前後が1週間の大型連休となる。旧暦の新年を祝うもので日本の正月休みに近い感覚だ。今年は2月11日から17日までだった。本来はおめでたいはずなのに、華やいだ心境になれなかった。12日に森喜朗さんが東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長辞任を表明した。本番まで半年を切り、最近の全国世論調査でも中止や再延期を望む意見が8割を占めるなど五輪の開催が危ぶまれている。

 自分でコントロールできないことには注力しない性格で、人前では「やれることに集中する」と言い切りながら、さっきまでの考えを簡単に変えたり、思考がぶれたりしている私がいる。57年の人生で初めてだ。落ち着かない気持ちのまま視察したビックカメラ高崎の練習で、背中を押されるような光景を目にした。

 太陽誘電から移籍した藤田倭が上野由岐子と並んで投げ込む姿に圧倒された。大げさではなく、球が生きていた。投球の間、2人に会話はなかった。上野が藤田に助言することもない。それでも互いに意識し合っているのが分かった。投手は自らアクションを仕掛けられる唯一のポジション。藤田が発した“気”に触発されたのか、上野からも「負けないぞ」とのオーラが発散されていく。どんな言葉よりも球は雄弁だった。

 新型コロナの猛威にさらされるようになってから、代表活動も対外試合がなくなり、強化合宿の日程を組めないなど制約を強いられている。監督として新しい試みを実践する機会が激減し、ここ1年は戦略面で頭を働かせることもあまりなかった。誤解を恐れずに明かせば、五輪がなくなることすら覚悟していた。

 そんな中、藤田の投球にハッとさせられた。これも運命だったのかもしれない。シンプルに「彼女たちのために」オリンピックがあってほしい。頑張ってきたことを発揮できる場があってほしい。開幕戦の舞台、福島の皆さんに姿を見ていただきたい、と思った。私自身が胸を打たれたように「よし、頑張ろう!」と勇気づけられるはずだから。

 藤田は30歳。現在38歳の上野が藤田と同じ年齢の頃は、寒さの厳しい群馬で投げ込むことは少なかった。藤田のみなぎる意欲の源は、単に新天地だからという環境面の変化ではない。一人の選手として純粋に「進化したい」一念が体を突き動かしている。

 打撃も一流で、私は投打の「二刀流」で期待している。ビックカメラ高崎を率いていた時、当時太陽誘電の彼女を抑えるのに苦労した。上野のチェンジアップを泳ぎながらも片手一本でホームランにしたこともあった。豪打に加えて柔らかさも持ち合わせている。見ていて本当に楽しい選手だ。

 3月から沖縄・読谷で代表の合宿を再開する。上野や藤田に限らず、素晴らしい能力を持った選手たちを間近で見られる、指導できる幸せにとことん浸りたい。初心に戻り沖縄へ飛ぶ。(ソフトボール女子日本代表監督)

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

PR

開催中

第13回あんぱんパーク

  • 2021年10月21日(木) 〜 2021年10月28日(木)
  • ベイサイドプレイス博多 海側イベントスペース
開催中

第5回写遊会 写真展

  • 2021年10月15日(金) 〜 2021年10月29日(金)
  • まいなびギャラリー(北九州市立生涯学習総合センター1階)

PR