上野由岐子は五輪までに仕上がるのか 球の質だけでない「判断材料」

麗しき夢 【40】

(2021年5月17日掲載、肩書などは当時)

 もともと花粉症持ちのため、春先は外を出歩かなかった。体は正直だ。動かないと太っていく。絞らなくては、と2年ほど前に散歩を始めた。1時間で7000歩が目安。1日1万5000歩が目標で2万歩を超える日もあった。過去形で「あった」としたのは、最近昼間に代表選手の練習を視察しているからだ。6月1日で58歳。若くはない。睡眠も6時間は確保するように努めている。散歩は2日歩いて1日休むペース。足がむくんだら、自宅近くのマッサージ店でほぐしてもらっている。

 私の人生は「戦略」に基づいている。散歩であれば、何のための一歩なのか。必ず根拠がある。体のためなのか、考える時間が欲しいのか、その時々の自分に問い掛ける。今は歩きながら代表チームの方向性を考えたり、課題を整理したりしている。東京五輪で米国との決戦になれば十中八九、僅差になる。作戦や技術はもちろん、最後に勝負を分けるのは運と心。この二つに尽きる。心の前にまず体だ。間違っても病気で指揮を執れない事態になってはいけない。私だけの体ではない。食事も「病気にならないように」と念じながら口にしている。

 4月上旬に右脇腹を肉離れして戦列を離れていた上野由岐子(ビックカメラ高崎)が5月7日のリーグ戦で復帰し、即3連投した。東京五輪に向けた中断期間前最後の実戦機会。五輪を意識した登板だったのは言うまでもない。先発とリリーフで投げ、途中で高めに抜けるような球もあった。万全ではないにしても、体に問題はなかったようだ。

 何といっても、本番まで時間がない。ここからどうやって仕上げていくのか。球自体は良くても、打たれたら意味がない。もっとも上野は投げた球の質で「良い」「悪い」を判断するようなレベルの投手ではない。五輪期間中に39歳を迎える現在の力に残り2カ月でどこまで、これまでの経験をスパイスとして利かせられるか、にかかっている。

 17日に集合し、18日から群馬・高崎市ソフトボール場で代表合宿を再開する。代表15選手の戦術への理解度を徹底的に深め、どんな状況になってもチーム一丸で意思統一して戦える状態にする。一丸とはチームメートと調和が取れているときに生まれるもの。心の結び付きほど堅固なものはない。極端な話、サインが出ていなくても選手で試合を動かせるのが理想だ。

 五輪を巡り、さまざまな議論が続いている。私たちは、良い準備に集中するだけだ。今するべきことは言葉ではなく、体と脳をフルに動かして支度を万端整えること。舞台に呼ばれたら「よし!」と腹をくくって結果を出す。そうでなければ、最終決定に従う。

 14歳で出合ったソフトボールは命、仕事以上のもの。逃げ出すことはできない。勝ったらどんなご飯でもおいしい。負けてしまえば豪華な食事だって箸が進まない。戦略に基づく人生を送っているのは、全てを懸けて「勝負」に挑むためだ。(ソフトボール女子日本代表監督)

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

関連記事

PR

開催中

学ぶ!SDGs×企業

  • 2021年10月20日(水)
  • カフェ&コミュニティースペース dot.(ドット)交流スペース
開催中

ストレッチング講座

  • 2021年9月13日(月)、15日(水)、22日(水)、27日(月)、29日(水)、10月6日(水)、11日(月)、13日(水)、20日(水)
  • 野中生涯学習センター

PR