米国エースも大警戒…ソフト日本代表の「猫と会話できる」最終兵器

麗しき夢 【41】

(2021年6月3日掲載、肩書などは当時)

 へその奥にはいろんな力があると、私は中国で気功を学んでいた姉から教わった。押すと活力が湧く「命の要」らしく、昔からへそに手を置くと心が落ち着いた。運動的にも理にかなっており、バランスが取れて、体の遠心力や推進力を使いやすくなる。現役時代にゴロをさばくときは、いったんボールをへそ付近に持ってきてから投げていた。

 雑念を取り払うためのルーティンは人それぞれだ。例えば、東京五輪の代表に選んだ森さやか(ビックカメラ高崎)は打席に入る前にジャンプする。腹が据わって集中力が増すのか、私が名前を呼んでも聞こえていないことがある。よくこんなに変われるなと感心するほど、のんびりとした普段の受け答えとは別人だ。

 「私は猫と会話できます」と真顔で口にしており、移動のバスの中や試合前には猫の動画をよく見ている。実家で長く飼っていたそうで、動物にも分かる彼女の心の優しさはグラウンドでも同じ。審判へのあいさつを欠かさず、捕手がマスクを地面に落とせば拾い、自分のユニホームで汚れを拭いてから渡す。さりげない行動に性格の良さが表れる。当然、エースの上野由岐子をはじめチームメートの誰からも愛されている。

 東女体大出身の32歳。同大学の監督を長く務め、2017年に亡くなった吉野みね子先生に「あなたに預ける。打つことしかできないけれど」と託された。所属チームでも4番を打つ力を持ち、外国人投手にめっぽう強い。以前、私が指揮を執った日本リーグの豊田自動織機戦でたしか6点差を逆転したことがある。監督生活でも忘れられない試合だ。森は米国人投手を相手に反撃の口火を切り、勝利を決める一打も放った。

 五輪で最大のライバルとなる米国代表の主戦左腕、モニカ・アボット(トヨタ自動車)も、警戒する打者に森を挙げたことがある。理由は「何を考えているのか分からない」からだそうだ。猫と気持ちが通じるという彼女に、特別な能力を感じ取るのかもしれない。

 米国には08年の北京五輪で日本が打ちあぐねた左腕、キャット・オスターマンもいる。15年に一度は現役を退き「東京での五輪金メダル」を誓って代表に復帰してきた。190センチ前後と長身の二枚看板を攻略するには、外国人キラーが必要だと感じていた。今回の代表には左腕対策として、投打二刀流の藤田倭以外に右打者を8人そろえた。森もその一人。登録は外野手ながら、プロ野球の「DH(指名打者)」に似た「DP(指名選手)」候補だ。

 球が速い上に高低だけでなく横の変化も大きな外国人投手を打ち崩すのは容易ではない。163センチの森は「力対力だと負けてしまう。力には優しくという感じで」と独特の感覚で相対しているようだ。状況に左右されない自分のリズムとスタイルを崩さない選手は強い。くしくも「キャット」の名を持つオスターマン相手に何かしてくれるのでは、との期待を抱いている。(ソフトボール女子日本代表監督)

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

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