「神ゲッツー」だけじゃない 永遠に語り継がれて欲しい「神打撃」

麗しき夢 【48】

(2021年9月8日掲載)

 私が暮らす群馬の高崎にも周囲の山々から涼風が届くようになった。9月に入ってからは、再開した日本リーグ女子の試合に出向いている。メディアのおかげで東京五輪についての話題に触れる機会も多い。ある記事で「神ゲッツー」の見出しを目にした。宿敵米国との決勝で痛烈なライナーを三塁手の山本優(ビックカメラ高崎)が体に当て、直接好捕した渥美万奈(トヨタ自動車)が素早い二塁送球で併殺にした好守だ。

 頂点への道筋を切り開いたのが、大会を無失策で乗り切った守備だったのは言うまでもない。堅守で主役となった渥美は9番での打撃も光った。メキシコ戦のエンドランでのサヨナラ打や、先制点となった決勝の適時内野安打。私が「永遠の9番」と呼ぶ彼女の巧打なしに栄冠はなかった。

 千葉であった2018年の世界選手権で私は渥美を5番に置いた。東京五輪で中軸を打たせるプランはなかった。日本には4番山本をはじめ、藤田倭(ビックカメラ高崎)、山崎早紀(トヨタ自動車)と一発がある選手がいる。主将の山田恵里(デンソー)を加えた、この4人は本番で必ずマークされる。主軸の力勝負だけでは米国に対抗できない。倒すには引き出しを増やさなければいけない。下位を含めた打線のつながりを求め、それには渥美の成長が必要だと考えたからこその「5番起用」だった。

 私はオーダーを組む際に2番、5番、8番、9番の人選に時間を割く。打線を「点」ではなく「線」に仕上げ、相手投手に息をつかせないためだ。特に9番は上位の1番につなげる大切な打順。痛打すれば相手にダメージを与えられる。さらに海外の投手は「三振が少なく、内野安打が多い打者」を嫌がる。9番の適性を感じた左打ちの渥美に、国際大会でも経験を積ませたかった。だからこそ、世界選手権では勝負を避けられることが多い4番山本の後をあえて打たせた。五輪を見据えた一手だった。

 渥美には「とにかく転がしなさい」「20球ぐらいファウルを打つつもりで」と助言した。あれから3年。米国との決勝の第1打席でオスターマンから10球ほど粘って四球で出塁した姿に胸が熱くなった。二塁への適時内野安打では頭から猛然と飛び込んだ。どちらかというと闘志を内に秘めるタイプの彼女が感情をさらけ出した。「渥美万奈」の人間力を美しいと感じた。

 大会での全11打席で三振はゼロ。4安打は全て内野安打だった。バットを持つ以上、本塁打やきれいな安打を打ちたい欲もあるだろう。それでも打席での右足の上げ下げなどでタイミングの取り方を工夫し、際どいコースをファウルにする技術も発揮してくれた。

 「神ゲッツー」の美技とともに9番打者の役割を完璧に果たした打撃も永遠に語り継がれてほしい。二塁内野安打を打った打席。渥美はやや高めのストライクを見逃した。打てばフライになると分かっていたのだろう。あの自制心に、私は心からの拍手を送りたい。(東京五輪ソフトボール日本代表監督)

 ◆宇津木 麗華(うつぎ・れいか)1963年6月1日生まれ。中国・北京市出身。元中国代表。88年来日、95年日本国籍取得。現役時代は内野手で日本代表の主砲、主将として活躍し、シドニー五輪銀メダル、アテネ五輪銅メダル。2003年に日立&ルネサス高崎(現ビックカメラ高崎)の選手兼任監督就任。04年に現役引退後は11年から15年まで代表監督を務め、12、14年の世界選手権優勝。16年11月、再び代表監督就任。群馬女子短大を聴講生として卒業。右投げ左打ち。

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