成果強調、反省少々 菅首相、退陣表明初会見で

 「12日の緊急事態宣言解除は難しいと覚悟するにつれて、新型コロナウイルス対策に専念すべきと思い、(自民党)総裁選に出馬しないと判断しました」。9日夜、記者会見に臨んだ菅義偉首相は退陣の理由について同じフレーズを繰り返した。「国民のために働く内閣」の旅はわずか1年で終焉(しゅうえん)を迎えることになるが、成果を主張する一方で、国民が知りたいと願う「核心」には触れさせなかった。

 午後7時。濃紺のスーツ姿で会見場に現れた首相は冒頭、「新型コロナとの闘いに明け暮れた日々でした。国民の生命と暮らしを守る、この一心で走り続けてきました」とこの間を振り返り、「国民一人一人のご協力に心から感謝を申し上げます」。2秒間、深々と頭を下げた。

 その後は、慣れた様子でプロンプター(原稿映写機)に目をやりながら淡々と読み進めていく。最大の関心が注がれた総裁選不出馬のくだりでは「新型コロナ対策と公務を抱えながら総裁選を戦うことは、とてつもないエネルギーが必要だ」。3日、唐突に表明した際の説明から新しい内容は加えられなかった。

 「『菅降ろし』のエネルギーに気おされたのではないか」「(交代を告げた二階俊博幹事長の後任など)役員人事の行き詰まりが原因だったのではないか」。記者団から次々に質問が飛んだが、首相は「いろんなシミュレーションを行ったということも事実」などとけむに巻きつつ、それ以上の踏み込みは避けた。

 関係者によると、首相は最近、役員人事や9月中の衆院解散の可否など胆力を求められる際どい判断が一度に重なり、思い詰めたような空気を漂わせていた。退陣を表明した直後には、周囲に「ごめん、ちょっと気力がな…」と心中を漏らしていたという。

 会見では「避けては通れない課題に挑戦してきた」と強調し、携帯電話料金値下げ、二酸化炭素(CO2)排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」、デジタル庁発足と、政権の「業績」を羅列。国民の賛否が分かれる中で予定通り遂行した東京五輪・パラリンピックに関しては「開催国としての責任を果たし、やり遂げることができました」と胸を張った。「全てをやりきるには1年はあまりにも短い時間だったが、国民が安心と希望を持てる未来のために道筋を示すことができたのではないか」との述懐に、人事権を駆使しながらトップダウンで前進する「仕事師」の自負がにじんだ。

 ただ―。この1年間、指摘され続けてきたように、準備した紙をめくっての回答も目についた。誰が宰相の座にあっても政治の運営が極めて難しいコロナ禍の世とはいえ、本音で語り掛けて国民の納得を得ようとするリスクコミュニケーションの姿勢を首相に見ることは、最後までかなわなかった。

 「まだ質問があります」。会見が始まって1時間。10人前後の記者が手を上げていたが、首相は司会者を見つめ、会見場を去った。

 (井崎圭、河合仁志)

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