消えぬ未接種者差別の懸念 ワクチン接種証明導入に課題山積

 政府は9日、新型コロナウイルスのワクチン接種の進捗(しんちょく)に合わせた行動制限緩和策をまとめた。ワクチン接種済みか検査の陰性証明を条件に、県をまたぐ旅行やイベント、飲食店での酒類提供を容認する内容で、ウィズコロナ時代の新たな指針を示した。プロ野球福岡ソフトバンクホークスが福岡市の本拠地で有観客試合を同様の条件で実施するなど、感染防止と経済活動の両立を目指す動きが始まっている。一方で、未接種者への差別をどう防ぐかなど、課題も少なくない。

 2日夕、福岡市のペイペイドーム前にはホークスの応援グッズを手にしたファンの列ができた。引換所でワクチン接種完了時に医療機関から受け取るシールか、陰性の証明書を提示してチケットを受け取り、球場内へ。球団によると、この条件でのプロスポーツ興行は全国初という。

 「試合を見られるならワクチンを打ちたいと思う人は結構いるはず」と男子大学生(19)。自身は2度の接種を終えたが、周囲にはためらう人も少なくない。一方、持病があり、副反応が心配で接種予定がない福岡市の女性(20)は「判断は人それぞれ。陰性証明で試合観戦できたのはありがたかった」と喜んだ。

 球団が陰性証明も認めたのは未接種者への差別を防ぐため。対象者にPCR検査キットを郵送し、費用は球団側が負担した。井上勲広報室長は「若い世代やワクチン接種に関心のない人に考えるきっかけをつくりたかった」と語る。

 専門家の間には感染収束が見通せない中での制限緩和に慎重な意見があるものの、本格的な経済活動や自由な行動の再開を待ち望む人たちからは歓迎の声が上がる。懸念されているのが未接種者への差別だ。

 日本弁護士連合会は5月にワクチン接種に関する相談窓口を設け、2日間で208件の電話があった。中には「接種しないと実習を受けさせないと言われた」(学生)、「接種を拒否したら『辞めてもらう』と言われた」(介護施設職員)など深刻な内容もあった。

 相談に応じた川上詩朗弁護士(東京)は「未接種が可視化されることで、差別を受けやすくなったり、持病を他人に知られたりする恐れがある。陰性証明についても、取得費用を誰が負担するかなど細かい議論が必要だ」と指摘する。

 感染力の強いデルタ株によりワクチン接種を終えた人にも感染が広がっていることも不安材料だ。

 久留米大の溝口充志教授(免疫学)は「英国で7月、ワクチン接種者や陰性証明書を持った人ら大勢の観客を入れて実施したサッカー欧州選手権では、マスクなし、飲酒も自由にした結果、大規模な感染が確認された。ウイルスとの共生を前提とするなら行動制限緩和は妥当だが、さらに接種が進んでも感染対策の徹底は不可欠だ」と指摘する。 (平峰麻由)

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