たたき上げ首相の誤算 会食で「生の声」聴くスタイル、コロナで不可

 新型コロナウイルス対策の4度目の緊急事態宣言は9月末まで延長が決まり、菅義偉首相は持論の「防疫と経済の両立」を実現できぬまま、政権に終止符を打つことが確実となった。昨秋の就任から約1年。コロナ対応は時に迷走し、結果として全般的に後手に回り、命運を託したワクチン接種は一定の前進を見たものの、一度傷ついた国民との信頼関係はついに回復を見なかった。 

 「10月から11月の早い時期には、希望者全員のワクチン接種が完了する予定です。それに向けて宣言などの地域であってもワクチンの接種証明や検査の陰性証明を活用し、制限を緩和していきます。認証制度も使って飲食、イベント、旅行など社会経済活動の正常化の道筋を付けてまいります―」

 事実上の退陣記者会見となった9日夜、首相はコロナの「出口戦略」に特に力を込めた。その言葉はとりもなおさず、就任時に高らかに掲げた、感染拡大抑止と社会経済活動の両立がかなわなかった冷徹な事実を示していた。

 昨年9月に政権が船出した時、たたき上げの首相に国民は好感を寄せ、支持率は共同通信の世論調査で66%を超えた。だが、継承を誓った安倍晋三前政権と同じく、感染の波を抑え込めなかったことが政権の命脈を大きく縮めた。

 10月に入ると感染再拡大の様相が見えたが、専門家の諫言(かんげん)を受け入れず、自ら旗を振った観光支援事業「Go To トラベル」の継続に固執した。感染者は全国で増え続け、12月に支持率が急落し、トラベルは停止に追い込まれた。

 今年1月には小池百合子東京都知事らから突き上げられる形で、2度目の緊急事態宣言を発出。「1カ月後には必ず事態を改善させる」と大見えを切ったが、解除は3月下旬を待たねばならなかった。ゴールデンウイーク期間中の「短期集中」と銘打った3度目の宣言も、7月の東京五輪開幕前に「先手先手の予防的措置」として東京に出した4度目も、首相の決意はことごとく空転。感染を制御できず、支持率は低迷し、回復基調に戻ることはなかった。

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 一方で、トップダウンで加速させたワクチン接種には評価が寄せられた。

 河野太郎行政改革担当相をワクチン担当に任命。5月には「1日100万回接種」の号令を発し、総務省を通じて自治体の尻をたたくことで6月に達成させた。全人口に占めるワクチン接種率は9月8日時点で、1回目を終えた人が61・4%、2回目まで完了した人が49・4%。1日の接種回数も120万回程度をキープしている。

 米英の先行事例では、国民の4割が1回目のワクチン接種を終えれば新規感染者数は減少に転じるとされていた。だが、感染力の強いデルタ株による「第5波」に直面し、五輪中の8月上旬に1回目の接種率が4割を超えた後も感染爆発は止まらなかった。

 「国民の命と健康を守る」と決意を繰り返し、それを守れず説明につまずくたびに国民の心は離れていき、衆院選を間近に控えた自民党から“引導”を渡された。官房長官時代に危機管理能力を存分に発揮し、「鉄壁」と言われた首相はなぜ、感染症対応に失敗したのか。周辺は「朝や夜の会食を通じて多くの人の話を直接聞き、官僚の説明とのギャップを埋めるのが首相のやり方だった。コロナ禍で(会食が)できなくなり、国民感覚とずれが生じてしまったのかもしれない」と嘆いた。 (久知邦)

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