デジタル庁発足 安心の上に利便性高めよ

 行政のデジタル化は役所のためではなく、国民のためでなければならない。誰もが理解し、使いこなせる形で、暮らしの利便性を高めることは急務だが、個人情報を安心して預けられる信頼を築くことが大前提だ。

 国の情報技術(IT)政策の司令塔となるデジタル庁が発足した。各省庁や地方自治体がばらばらに構築してきた行政システムの標準化をはじめ、マイナンバーカードと運転免許証の一体化などが当面の課題だ。

 国のIT政策の本格化はIT基本法が成立した2000年にさかのぼるが、行政のデジタル化は縦割り組織の壁や根強い「紙文化」に阻まれ、遅々として進んでいない。新型コロナウイルス対策を巡っても、給付金交付やワクチン接種状況の管理など随所でほころびが生じた。

 鍵を握るマイナンバーカードの普及も伸び悩んでいる。運用開始から5年半以上たっても普及率は4割に満たず、来年度中にほぼ全国民に行き渡らせるという政府の目標には程遠い。現状ではカードを持つ利点が乏しく、個人情報を管理されることへの拒否感、抵抗感も解消されていないことが大きな要因だ。

 マイナンバーカード事業はデジタル庁に移管される。ただ、職員の3割超を民間出身者が占め、企業との兼職者も含まれることに懸念が拭えない。

 庁発足の直前には、母体となった内閣官房IT総合戦略室の民間出身者チームが、東京五輪関連のアプリ発注を巡り、企業の参考見積書を他社に渡すといった不適切な行為が発覚した。

 行政機関だからこそ集められる情報は適切かつ厳重に守る必要がある。出身企業のために用いるなど論外だ。公務を担う者にふさわしい高度な倫理観を肝に銘じてもらいたい。

 医療、教育、防災分野などのデジタル化の支援も、デジタル庁の重要な役割だ。対応が不十分な省庁に対する勧告権も与えられた。ファクスの廃止すらままならない省庁には、この際徹底した意識改革を求めたい。

 行政のデジタル化はシステム整備で終わりではない。

 デジタル化に伴い事務効率化が進んで生じるマンパワーを、時代に対応した新たな政策分野に振り向けられるようになる。官民のビッグデータを活用すれば、住民ニーズや政策効果の把握も容易になり、よりきめ細かく柔軟な施策作りに役立つ。

 デジタル改革の真価は、行政の仕組みをより国民生活に寄り添ったものに刷新できるかどうかにかかっている。庁創設の旗を振った菅義偉首相は退陣するが、個人情報保護の面の懸念ばかりが高まって、改革の実が結ばないようでは困る。

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