「ここまで仕掛けてくるとは」 無敗の男が切り崩し指南 福岡2区の攻防

決戦前夜 2021衆院選㊤

 新たな風向きは、まだつかめていない。

 支持率の低迷が続いた首相の菅義偉が3日、電撃的に退陣を表明した。「先のことは分からない」。福岡2区の自民党現職、鬼木誠(48)は戸惑う胸の内をブログに書き込んだ。

 連日、街を歩いた。「菅さんが辞めて自民には良かった」「総裁選で岸田文雄さんをよろしく」…。声を掛けられる。「厳しい空気が変わってきた」。肌で実感し始めた。

 9日昼。鬼木は所属する石原派の会合に出席。総裁選を巡って「党員の選択肢を増やし、議論を活性化させるべきだ」と熱弁を振るい、派閥会長の石原伸晃に出馬を勧めた。鬼木は、党の刷新を求めて発足した若手派閥横断グループの議論にも参加している。菅の退陣表明で逆風は弱まったが、追い風にできるか-。「党に期待が持てるか、有権者はじっと見ている」。顔に危機感がにじみ出た。

「風」に神経研ぎ澄ます

 福岡2区で鬼木と対決する立憲民主党の比例九州現職、稲富修二(51)は3日、スマートフォンのニュースで菅の退陣表明を知った。「新首相が選出されたら、ご祝儀相場で内閣支持率が上がるかもしれない」。次々と訪れる記者に、懸念を率直に打ち明けた。

 6日には、マスコミOBでつくる「福岡ペン倶楽部」(福岡市)が企画したオンライン討論会に出席した。並んで座った鬼木を前に、総裁選一色に染まった自民を「今はコロナ対策に集中してもらいたい」とけん制。ただ、移ろう世論を気にしてか、対決のトーンは控えめだった。

 九州で無党派層が最多といわれ「風」に左右されやすい福岡2区。稲富は世論に惑わされない票を得ようと、自民支持層の切り崩しを着々と図ってきた。そして、衆院選直前の首相退陣。「何が吉で、何が悪く出るか見えないのが選挙戦」。稲富もまた、風に神経を研ぎ澄ます日々が続いている。

やってきた「無敗の男」

 福岡2区に「無敗の男」がやって来た。

 7月下旬。自民党の福岡市議の事務所。市議がドアを開けると、立憲民主党の重鎮、中村喜四郎(72)がいた。立民比例九州の現職、稲富修二を従えている。

 中村はかつて自民に属し「プリンス」と呼ばれた。43歳で建設相に。汚職事件で失職、服役後も衆院茨城7区を無所属で勝ち続けた。当選14回。無敗の男の異名を取る。昨年、立民入りし、全国で自民の切り崩し術を指南して回る。

 「今の自民党で良いと思いますか」。突然の訪問に驚く市議に、中村は古巣の変節を嘆き始めた。「昔は自由に議論できたが、今は誰も逆らえない。国民の声を聴いていない」。鋭い眼光。「その通りですね」。市議は思わずうなずいた。帰り際、稲富が深々と頭を下げた。「福岡のために一緒に頑張りましょう」

 中村と稲富はこの日、福岡2区の自民系の県議や市議をアポなしで訪ね歩いた。ある事務所では、自民現職の鬼木誠と鉢合わせ。「ここまで仕掛けてくるとは」。鬼木サイドに動揺と警戒感が広がった。

 「相手の支援者も回れ」。一連の活動は、中村が身をもって示した稲富へのアドバイスだ。福岡2区で稲富は鬼木に3連敗中。ただ、前回2017年は、約8千票差に肉薄して比例復活した。「今度こそ」と中村の教えを守り、自民支援の企業や団体にも気後れせず足を運ぶ。陣営関係者は「鬼木さんのポスターを張った会社で応接室に通されることが増えた」と明かす。

信頼につながる「1日の差」

 佐賀2区でも、自民と立民の候補が激しいつばぜり合いを演じている。

 「JA組織一丸で力の限り支援する」。8月30日午前、佐賀県唐津市であった自民の比例九州現職、古川康(63)の事務所開き。約4万7千人の正組合員を擁するJAグループ佐賀の政治団体「県農政協議会」の幹部が決意を披露すると、古川は小さくうなずいた。

 17年の前回。古川は、14年衆院選で3万票以上の差をつけた立民現職の大串博志(56)に約7千票差で惜敗。敗因の一つが農政協の対応だ。元来、自民の支持団体だが、第2次安倍政権の農協改革への反発や知事選のしこりで自主投票に。今回、古川は対話を重ね、推薦「奪還」に成功した。

 一方の大串は「どぶ板」の徹底で連勝を狙う。8月18日午後。大串は豪雨で泥水に漬かった武雄市のビニールハウスにいた。イチゴ栽培の男性が前日、「窮状を知ってほしい」と視察を打診。大串は「明日、東京から帰る。午後から行ける」と快諾した。男性が同時に視察を要請した自民の県選出参院議員の事務所は「あさって行く」と答えた。

 「災害時、少しでも早く動いてくれるのが大事だ」。集まった農家は大串に感謝の声を上げた。1日の差が信頼につながる-。大串陣営の幹部は攻防の厳しさをかみしめた。 =敬称略

 衆院選が迫ってきた。コロナ対策への批判が高まり、与党大勝の過去3回とは様相が一変。菅義偉首相の突然の退陣表明で情勢は混沌(こんとん)としている。前哨戦の現場を追う。(衆院選連載取材班が担当します)

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