テロとの戦いが米国に残した喪失感 ワシントン支局長・金子渡

 泥沼化したアフガニスタンから米軍が撤退を完了し、迎えた9月11日。20年に及ぶ戦争が米国にもたらしたのは大きな喪失感だった。

 「われわれの任務は完了した」。4月14日、バイデン米大統領はアフガンからの完全撤退を表明。政権には当初、9・11に合わせて戦争終結を大々的にアピールしたいとの思惑があったのだろう。

 だが、その狙いは崩れた。イスラム主義組織タリバンの復活を許し、長年注力してきた民主国家建設は水泡と帰した。撤退に伴う現地の混乱ぶりは、ベトナム戦争末期のサイゴン陥落をほうふつとさせた。それは政権にとって最悪のシナリオだった。

 イラク、アフガン戦争を通じて米兵7千人以上に加え、民間請負業者8千人以上が犠牲になった。投じた関連戦費は6兆~8兆ドル(約660兆~約880兆円)に上るともいわれる。

 中東問題に詳しい米デポール大学のスコット・ヒバード准教授は「この20年間でインフラ整備や基礎的な研究開発など、米国が経済的・社会的に一流の国であり続けるための膨大なお金が費やされた」と指摘する。

 勝利宣言した対テロ戦も道半ばだ。アフガンで自爆テロを起こした過激派組織「イスラム国」(IS)は隠然と勢力を保ち、アフガンが再びテロの温床となる懸念も消えていない。

 米紙ワシントン・ポストとABCテレビが8月29日~9月1日に実施した世論調査によると、9・11後に米国が「悪くなった」と回答したのは2002年の27%から46%に上昇。テロ攻撃からの安全性の認識についても、テロの首謀者ビンラディン容疑者が殺害された4カ月後の11年9月の64%から49%に低下した。

 政権は中東からの撤退理由の一つとして「対中国との競争力を高めるため」と強調。早速、日米豪印4カ国による「クアッド」首脳会談の開催に向けた調整に動く。裏返せば、アフガンでの失敗をいち早く払拭(ふっしょく)したい表れともいえる。

 唯一の超大国の面影はもはやない。今後、米国が他国への関与を避け、内向きになるのは避けられない。民主主義と人権を外交基軸に置くバイデン政権の真価が問われている。

 (ニューヨーク金子渡)

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