「できていないんです」泣き始めた新人教員 大量採用時代、育成苦悩

【教員の専門性(7)】

 福岡県内の公立小で新人教員の指導を担当したケイコさん(50代)は、締め切りを過ぎても授業計画を出さない1人に声を掛けた。

 「どうしよっか?」

 その新人は突然、声を荒らげて泣き始めた。「できていないんです!」

 責めたつもりはなかった。むしろ、一緒に計画を考えようとしていたのに、非難されたと思い込んだようだった。「パワハラだ」と言われかねないと感じた。

 「何を考えているのか分からない。年々、そんな教員が増えている」

 コロナ禍の長期化も影を落とす。1年半前から職場の飲み会が開けず、この間に着任した教員とは学校でしか話していない。仕事とプライベートの区分けは明確になった一方で、趣味や家庭の状況といった「普段の姿」は見えにくい。

 別の若手教員は、周りから「できる先生」と評価されていた。落ち着いた学級の担任をしていたが、突然に「休みます」と連絡があり、病休に入った。

 一体なぜ-。理由が分からないケイコさんたちは困惑し、代わりに授業をする教員の確保に忙殺された。

 全国各地で今、教員の大量採用が続いている。背景には、大量定年と特別支援学級が急増する時期が重なっていることがある。

 「倍率が高かった20年前であれば採用されなかったような人が、教壇に立っている」とケイコさん。

 いざ働き始め、授業の改善や日常的なやりとりに難があることが分かっても、すぐに「不適格」と認定するのは難しい。不祥事や学級崩壊など明確な根拠がなければ分限免職にしたり、研修プログラムを受けさせたりすることはできない。

 なり手不足も影響している。県内の公立小の校長は最近、力不足に感じた講師の契約を打ち切ろうと思ったが、後任が見つかる保証はなく、雇用を継続した。

 「学校のルールで決まっている方がありがたい」

 公立小教員のタダシさん(40代)=福岡県=は若手教員の意見に落胆した。例えば「小学生はなぜ学校でシャープペンシルを使ってはいけないか」。児童に聞かれた際、対話しながら教えるテーマの一つだと思う。若手は「ルール」の一言で済ませたいようだった。

 そんな意識を反映してか、学校での過ごし方や家庭からの持ち物を細かく定めた「スタンダード」が各校で導入されている。掃除中は無言▽手を挙げるときは肘を伸ばす▽着席中は足の裏を床に付ける▽低学年で使う鉛筆は2B-。

 ルールを決めておくことで言動を逐一注意することが減り、指導しやすい環境につながるとされるが、危機感を覚える。

 「学校での過ごし方は、教員と子どもで一緒に決めていくもの。大切な過程が抜け落ち、ルール順守だけが重視されている」

 学校運営を巡る教員間の議論も随分減ったと、タダシさんは感じている。

 典型的なのが職員会議。かつては教員が順番に司会を担い、意見を述べやすい雰囲気があった。今は校長や教頭、学年主任による別の会議があり、全教員が集まる場などで決定事項が伝えられるようになった。疑問や異論を述べても教頭らは「意見として聞いておきます」と言うだけだ。

 そんな状況の中で過ごす若手教員たち。表立った発言は減り、たまる不満は愚痴として吐き出す。タダシさんは「意見を言っても何も変わらないので、議論そのものが無駄という考え方に陥っていく」と思う。その認識は、学級運営にじわりと広がる。

 「子どもに主体性を求める一方で、教員は細部にまで上の指示に従うことが求められるようになった。若手を育てるには、主体的に働ける環境を整えなくてはならないのに…」

 ある日、新人が相談してきた。指導教員からの業務連絡やアドバイスが、平日夜や週末にも無料通信アプリLINE(ライン)で届くのだという。仕事のことが頭から片時も離れず、それが苦痛で転職を考えるようになっていた。

 「よかれと思っての行為だろうけど、プレッシャーになっていた」。相手の心情を考えず押し付けるような指導法に、タダシさんの胸中には怒りとやるせなさが交錯した。

 (文中仮名)

 (編集委員・四宮淳平)

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