再び鳴った亡父のアコーディオン 記録的大雨被害の料亭に再起の音色

 佐賀県武雄市を襲った大雨から14日で1カ月を迎えた。市街地は六角川の氾濫で広範囲に浸水し、松山昇さん(57)が営む「料亭松山」も被害を受けた。創業者の亡き父・進さんが愛用したアコーディオンも水に漬かったが、乾燥させて弾いてみると懐かしい音色がよみがえった。先行きへの不安にくじけそうな時、父が励ましてくれているようにも聞こえる。そんな音色と家族の支えに背中を押されて、10月の営業再開を目指して準備を進めている。

 大雨に見舞われた8月14日、六角川から北側約1キロ離れた松山さんの料亭は、床から約120センチの高さまで浸水した。食器や調理器具に加え、冷蔵庫5台やエアコン、30枚以上の畳が被害を受けた。アコーディオンは専用ケースに入れて大切に保管されていたが、楽器の内部まで水が入っていた。

 約10年前に69歳で他界した進さんは生前、アコーディオンを担いで客前に立ち、歌謡曲などのリクエストに応えていた。地元の祭りや老人会にも演奏に出掛ける父の姿を松山さんは覚えている。「友人に借りたのがきっかけで没頭し、独学で演奏を身につけていた。父は周りを盛り上げるのが好きな性格だったから」

 店の再建には2千万円以上が必要だ。2年前も水害を受け多額な借金があり、楽器を修理する余裕はない。かびが生える前に処分するしかないとあきらめた。「父の形見ともサヨナラです」と会員制交流サイト(SNS)に書き込んだ。

 そんな時、「私が修理するから捨てないで」と、大阪に住む長女の千紗さん(22)から連絡があった。おじいちゃんっ子だった千紗さんは幼少期から、進さんのアコーディオンの音色に乗せ、小学校の校歌や童謡を歌っていた。「千紗にアコーディオンを渡すと決めたら、心がすっと楽になった」と松山さんは振り返る。

 SNSにも、進さんを知る料亭の常連客から「楽しかった時間を思い出すね」「大事にとっておいて!」と、30件以上の声が集まったという。

 アコーディオンは、張り替え中の床板や障子が残る小部屋で乾かされ、“再起”を待つ。夕日が差し込む部屋。家族に囲まれ、松山さんがアコーディオンを試しに弾いてみた。聞き慣れたメロディーに、みんな思わず笑みがこぼれた。「父はみんなに愛されていた。その父が残した店。必ず復活させたい」

 (星野楽)

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