特養の食費、一気に2倍超…年間の負担増「年金2カ月分」家族悲鳴

 「特別養護老人ホーム(特養)に入所する母親の食費が2倍超に一気に値上がりした」。福岡市の70代男性から西日本新聞「あなたの特命取材班」に悲痛な声が寄せられた。特養など介護保険の関連施設で8月から、低所得者への補助(補足給付)が減額されたためだ。家族は今後の支払いに不安を募らせている。 (竹次稔)

 「年金2カ月分と同じ額ですよ。負担が重すぎる」

 男性の母親は90歳超で、福岡市内の特養に入所中。7月までは1日の食費が650円だったが、8月からは1360円と約2・1倍となった。1カ月(30日)では4万800円となり、2万1300円もの負担増。母親の年金は月12万円超で、年間の負担増分はちょうど年金2カ月分だ。

 母親はこれまで、毎月(1)食費(1万9500円)(2)居住費(1万1100円)に加え、(3)介護保険サービスの利用料(1割負担で約3万円)(4)医療費1万~2万円-など合計7万~8万円を負担。8月から、食費の増額分が上乗せされる。

 男性は「90歳を超え、1日1360円分も食べられない。食事の内容が良くなるわけではなく、単なる負担増。今後に備えて積み立てる余裕もなくなる」と頭を抱えている。

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 2000年の介護保険制度のスタート当初、施設の食費・居住費は保険料から支払われていた。支援がない在宅サービスとの公平性を踏まえ、05年から自己負担に移行した。

 その際、所得の低い市町村民税の非課税世帯の負担を軽減する補足給付制度を導入。厚生労働省は19年からその見直し議論を進め、収入や預貯金の額に応じ、一部に追加負担を求めることを決めた。

 補足給付の対象は、単身世帯の場合は年収が155万円以下の人などに限られる。これまでは対象者のうち、生活保護などの受給者▽年収80万円以下▽年収80万円超-と3段階に分け、補助額を決めていた。8月に区分を見直し、施設入所者では、年収120万円を超える人に対する食費の補足給付を減額することにした。男性の母親もこのあおりを受けた。

 一方、居住費も含めて一定以上の預貯金などがある人も給付対象ではなく、その上限も引き下げられた。

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 福岡市によると、施設入所者以外の短期入所(ショートステイ)も含め、補足給付の毎月の利用者は7千人弱。この半数が制度変更で負担増などの影響を受ける見通しという。市介護保険課は「担当の区役所には、同じような苦情が寄せられている」と明かす。

 厚労省によると、全国では約27万人が制度見直しの対象となる。これに伴う関連予算の削減額は年間400億円規模になるとみられ、「介護保険制度を維持するためにも負担をお願いしたい」と理解を求める。

 一部の社会福祉法人は利用者の負担軽減制度を設けている。一定の条件を満たせば施設の食費で5千円ほど負担が軽くなるため、同省は制度利用を促している。ただ投稿を寄せた男性の母親は条件を一部満たさず、申請を断念した。

 東洋大の高野龍昭准教授(高齢者福祉論)は「食費補助を巡っては、在宅高齢者との公平な負担という観点から議論されてきた。厳しい財政状況も踏まえるとやむを得ない面がある」と指摘。一方で「毎月2万円を超える急な負担となる利用者がおり、激変緩和措置は必要。補足給付は低所得者対策であり、介護保険とは別の財源で行うのが筋だ」している。

家族全体の負担も考慮し分析を

 福岡大の山下慎一准教授(社会保障法)の話 補足給付の見直しは、施設入所者本人のみならず、家族全体の家計負担として捉えるべき問題だ。面倒をみる家族も高齢期に入っており、家族全体で受け取る年金、支払う医療費や介護費などに対し、制度の見直しがどのような影響をもたらすのか、政府は丁寧な分析が必要。それが過度な負担となる場合、年金、医療、介護といったどの社会保障制度を再検討し、財源を求めるべきか。政府はその議論を分かりやすく国民に伝え、理解を得ていくことが今まで以上に重要だ。

 補足給付 介護保険三施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)や短期入所を利用する低所得者に対し、食費と居住費の一部を介護保険から給付する制度。2014年の介護保険法改正で「支払い能力に応じた負担」を求め、給付要件を厳しくした。大幅な見直しは今回で2回目となる。

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