《とってもざんねんでした》石破氏の「不出馬」表明遅らせた小3の手紙

東京ウオッチ

 小学3年生の男の子が、政治家に送った手紙がある。一生懸命さが伝わってくる字で、こうつづられている。

 《テレビで総理大臣にりっこうほしないというのを聞いて、とってもざんねんでした。国民はぜったいになってほしかったと思います。国会にはいじ悪な人がいるかもしれませんが、がんばってください。おうえんしています。9月4日○△□》(※○△□は名前)

 手紙の宛先は、自民党の石破茂元幹事長。8月下旬。出演したテレビ番組で9月の総裁選に出馬するかどうかを問われ、「(菅義偉首相ら)みんなが一致して向かっている時に、『私がやります』とは口の端にも乗せるべきではない」と発言。メディアが一斉に「立候補見送りを示唆」と報じたため、石破氏のファンとみられる男の子は筆を執ったのだろう。

 この激励の文が書かれた9月4日時点では、石破派(17人)担当記者の私は石破氏の「出馬はあり得る」と思っていた。理由は、前日3日に菅首相が退陣表明したことだ。

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 それまで、石破氏は「誰がやっても厳しい中で全身全霊でやっておられる」と評するなど、新型コロナウイルス対応で批判の的となっていた首相を擁護してきた。総裁選出馬について「白紙」としながらも、「衆院選は菅首相の下で戦うべきだ」と話し、岸田文雄前政調会長らのように前のめりに首相に挑む雰囲気は感じられなかった。

 永田町では、支持率と求心力の低下に苦悩する首相が総裁選と衆院選を乗り切るため、党役員人事と内閣改造を断行し、国民的な知名度が高い石破氏を要職に起用する、との観測が流れていた。石破氏もまたそれを受け入れ、昨秋の総裁選完敗で失った存在感を取り戻そうと考えている節がうかがえた。

 だが、電撃的な首相の退陣表明が全てをゼロに戻した。

 記者団に対し「全く新しい展開になった。変化に伴う判断をしなければいけない」と告げた石破氏。出るのか、出ないのか-。総裁選の行方を左右する石破氏の決断に、にわかにスポットライトが当たるようになった。メディアの取材は過熱し、議員会館の事務所前には常時、私を含む記者が10~20人張り付いた。

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 6日のことだ。

 石破氏の地元・鳥取などを発行エリアとする日本海新聞朝刊に「推薦人20人は集まっている。政策も準備できている」と自信を示す記事が掲載される一方、午後には民放テレビが「不出馬調整、河野氏支持」と独自ニュースを流した。情報が入り乱れ、混乱して疑心暗鬼に駆られる石破派の議員たち、そしてわれわれメディアの記者。当の石破氏は不出馬調整のニュースを「言った覚えはない」と打ち消した上で、出演したテレビ番組、記者団の取材に「白紙」「熟慮中」と繰り返した。

 現実には、出馬には高い壁があった。

 昨秋の総裁選で獲得した国会議員票は、わずか26票。派閥内における求心力は低下し、石破氏の下を去るメンバーも相次ぎ、1年という時間を経ても票の上積みを期待できる環境からは程遠かった。今回の総裁選には、報道各社の世論調査で石破氏と人気を分け合う河野太郎行政改革担当相が出馬に強い意欲を示していた。石破氏が出た場合、強みである地方票を河野氏に奪われ、再起不能の深手を負ってしまう恐れもあった。

 7日に開かれた石破派の会合。「出馬すべきだ」と大将の背中を押した議員は、2人にとどまった。逆に、「河野氏を支援しよう」という声が公然と上がった。派内には、安倍晋三前首相との関係悪化を背景として長く続く「冷や飯食い」に疲れ果て、もう負け戦はしたくないとの空気がまん延していた。

 「過去の選挙で応援してくれる大勢を犠牲にした。昨年と同じこと(敗戦)は繰り返せない」。石破氏は、こう何度か口にした。「勝てるか否か」が決断の基準であるならば、出馬の可能性は限りなく小さかった。

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 冒頭で紹介した、小学3年生の男の子からの手紙が石破氏に届いたのは、そんな頃。支援者の子でもない、見ず知らずの少年からの一片の曇り無きエールに喜びを隠さず、周囲にしみじみ語ったという。「ありがたいなあ。こんな子どもまで応援してくれるんだから」。この一葉だけではない。出馬を望む多くの声が、石破氏に寄せられていた。しかし、なかなか態度を明確にしなかった。「決断できない」「優柔不断」…。ネット上にはいら立ちの声があふれた。

 今、その置かれた状況を冷静に振り返ると、私は、石破氏は早い段階で不出馬に傾いていたのだと思い至る。批判を浴びてまで長考したのは、世間が抱く高い期待と、なかなか道を開けていない自身の低い現在地のはざまで、はんもんしていたからではないか。この間の石破氏の立ち居振る舞いには、期待を裏切らない、人々を落胆させずに済む「最適解」を懸命に探している様子がにじんでいた。

 13日、さしで会談した河野氏からは「私が総理総裁になったら、水月会(石破派)の力をお貸しください」との申し出を受けた。そして15日、石破氏はようやく記者会見を開き、総裁選不出馬、河野氏支持を明らかにした。大きな理由は「改革を志す勢力を二分しない」「保守とは寛容、という政治理念を共有した」というものだった。質疑の途中、記者から「総理総裁を諦めたのか」と問われ、こう述べた。「厳しい時代に必要であれば、総理総裁をやらなければいけない。そのために日々研さんする。諦めたのなら、研さんをやめる」

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 29日の投開票の結果、仮に河野氏が勝ち抜いて新しい自民党総裁に、そして第100代首相に就いた場合、自民内の世代交代が一気に進む可能性が高いと指摘されている。過去の総裁選立候補、4回。やや、とうが立った感が否めない最強の挑戦者に、「次」の舞台は巡ってくるのか-。それでも、石破氏は歩調をそろえて河野氏を支援する小泉進次郎環境相らと、党員・党友の支持拡大に汗をかく。

 実は、男の子は手紙の末尾をこう結んでいた。

《あきらめないでください》

(井崎圭)

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