保険代理店に転職局員、かつての顧客に強引営業 現役から個人情報も

 かんぽ生命保険の営業を担当していた郵便局員が、他社の保険商品を取り扱う保険代理店に転職し、トラブルを起こすケースが相次いでいる。営業先確保のため現役局員に顧客情報を漏えいさせたり、かつての顧客宅を訪問して強引な契約をしたり。日本郵便は保険の不正販売問題の発覚後、適正な営業に力を入れているが、退職者の行為まで是正させるのは難しく、神経をとがらせている。

 「間違いありません」

 元局員が郵便局長に賄賂を渡し、顧客情報の提供を受けたとされる汚職事件。22日、熊本地裁で開かれた初公判で、2人は起訴内容を認めた。

 日本郵便株式会社法違反の贈賄と収賄の罪に問われているのは、2017年に熊本市の保険代理店に転職した元局員の山口祐二被告(37)と、熊本県天草市の元郵便局長の道西弘典被告(43)=懲戒解雇。

 検察側の冒頭陳述によると、道西被告は18年、郵便局のオンラインシステムなどを利用して資産に余裕のある顧客4人を選び、運転免許証の画像データを送るなどして紹介。山口被告は4人と保険契約を結び、謝礼として道西被告に計約60万円を渡したという。

 同様の贈収賄事件は鹿児島県でも発覚し、元局員ら3人が今年7月に有罪判決を受けている。

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 相次ぐ事件の背景について、九州のある局員は「保険代理店に転職して苦労している元同僚は多い。顧客情報を売り買いするモラルの低さは、郵便局勤務時代に身につけたんだろう」と自嘲気味に話した。

 07年の郵政民営化後、営業ノルマが過酷になったことなどから保険営業担当の局員は次々に退職。19年に不正販売問題が発覚してからはさらに増え、一部は他社の保険代理店に流れたとみられる。

 福岡県の元局員も約3年前に保険代理店に転職した。「契約成立時にもらえる営業手当は郵便局時代の数倍。厳しいノルマで培った営業力を生かしてどんどん稼げると思った」と話す。

 だが、郵便局時代と違って利用できる顧客情報はなく、自分で開拓しなければならない。飛び込みで営業しても警戒され、郵便局の名刺のありがたみを思い知らされた。男性は「郵便局のお客さんは人の良い高齢者ばかりだった。正直、顧客情報を漏えいさせる人の気持ちは分かる」と打ち明けた。

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 元局員の営業による被害を訴える声もある。

 関東地方の50代男性は19年、山口県で1人暮らしの80代の母親が「強引な保険営業を受けている」と、知人を介して連絡を受けた。

 調べると、母親宅には保険代理店勤務の元局員がたびたび訪れていた。18年3月には、かんぽ生命の保険を一度に5件も解約させられ、返戻金を原資に、元本割れリスクがある保険料1千万円の外貨建て保険を契約させられていた。

 男性が尋ねても母親は「思い出したくない」と言うばかり。外貨建て保険の販売元は「不正な営業は確認できなかった」、郵便局も「辞めた社員の問題」と取り合ってくれない。男性は「元局員は、郵便局の情報を悪用して不正な営業をしたのではないか」と憤る。

 こうしたトラブルを防ぐため、日本郵便は、局員の退職時に情報の秘密保持の誓約書を取り交わしているほか、元局員が担当していた顧客に対して文書を送付して注意喚起するなど、対策を強化しているという。

 同社は「(元局員による)不正行為が認められる場合、警察に相談するなど必要な措置を講じている。現役社員に対しても研修を行い、情報漏えい防止を徹底する」とコメントした。

 (宮崎拓朗、松本紗菜子)

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