舞うタオルに重なる「天使」 サウナ”西の聖地”で見た熱波師の秘技

サウナワールド ととのう人たち(3)

 150センチ×100センチ、600グラムという大きめのバスタオルをクルックルッと回しながら、長袖長ズボン姿の男性が小気味よく舞う。動きだけを見れば、ダンサー、あるいはストリートパフォーマーかと思うだろう。この人、ケビン福永さん(43)が躍動する場所は、舞台でもなければ路上でもない。そう、サウナ室である。彼は立ち上った蒸気をタオルなどであおぐ「アウフグース」の職人、「熱波師」なのだ。「サウナ西の聖地」と称される「湯らっくす」(熊本市)には、福永さんが生み出す良質な熱波を浴びようと、全国からサウナーが集まる。

巧みな技と気遣いが全国のサウナーから支持されるケビン福永さん

 アウフグースを知らない人もいますよね。簡単に説明します。まず、フィンランド式のサウナ入浴法に「ロウリュ」があります。これは、室内のストーブで熱されているサウナストーンにアロマ水をかけて熱い蒸気を発生させ、室内の温度を一気に上げて発汗を促すものです。

 次にその熱い蒸気をわれわれ熱波師がバスタオルを使って室内に行き渡らせ、利用者にさらに大量の発汗を促し、心地よさを味わってもらう。「爪の先まで一気に温まる」。これがアウフグースです。

 «福永さんのタオルさばきは、まさに華麗。操る風の心地よさもさることながら、動きを見ているだけでも楽しめる。もちろん、やみくもにタオルを振り回しているわけではない。アウフグース発祥の地とされるドイツなど欧州を中心に、世界中の熱波師が何億回もタオルを宙に舞わせ、数々の「技」が生み出されてきた歴史がある。福永さんが習得した技は何種類くらいあるのだろうか»

 20種類くらいはありますね。エンターテインメント的な側面もありますが、それぞれにちゃんと意味があります。私がよく使うのは「パラシュート」です。タオルを高い位置に上げた後、ゆっくり、ふんわりと落下させます。そうすることで、天井近くにたまった蒸気を利用者にしっかり優しく届けることができるんです。

ケビン福永さんの技の一つ、パラシュート。両手で持ったタオルをふわっと垂直におろし、天井近くの蒸気をサウナーたちに届ける奥義だ

 «西日本新聞meサウナ部員のリクエストに応え、湯らっくすのヨガルームで技の一部を披露していただいた。ぜひ動画を見ていただきたい。福永さんの操るタオルが、確かにふわりふわりと降下するパラシュートに見えてくる»

 このほか、室内の空気をかくはんし、一度に多くの利用者に風を送ることができる「フラッグ」という技もよく使います。旗のようにタオルを振るのが特徴です。

 天使の羽のように背中から前方にタオルを翻す「エンジェル」、8の字の軌道上で動かし、両端で回転を加える「スーパー8(エイト)」も使います。アウフグース中は、部屋全体を均一の温度にするために一度風を壁に当てて、熱気を広げる、といった工夫もしていますね。

 

ケビン福永さんの技の一つ、エンジェル。肩口からタオルを出す様が、羽を持った天使のように見えてくる

 «エンジェル…。サウナーを幸せにする福永さんは、まさに天使のようだ。サウナを語るその口ぶりに熱い愛を感じるが、そもそも昔から愛好者だったのか»

 5年前は清掃担当で、それ以前はサウナに入ることはあまりありませんでした(笑)。なぜ熱いところにわざわざ入るんだろうかと思ったこともありました。私がアウフギーサー(熱波師)として活動を始めたのは2016年4月の熊本地震後です。湯らっくすも被災し、西生吉孝社長の周囲でも、このまま施設を続けられないのではという声があったと聞いています。その後、サウナで全国的にも有名で福岡にも店舗があるウェルビー(名古屋市)やスカイスパYOKOHAMA(横浜市)の支援を受け、施設敷地内にサウナカーを設置し、被災者、ボランティアに使用してもらったところ、大変喜んでもらえました。

熊本地震で被災した熊本城=2016年5月

 サウナの「力」を改めて感じた社長は、施設の改修を行い、アウフグースをする熱波師の育成を始めました。その中の1人が私です。

 アウフグース担当になった後しばらくして、普通に風を送るだけの作業に物足りなさを感じるようになりました。あるとき、動画投稿サイトを見ていたら、アウフグースにもいろいろな技があることが分かり、仕事後に一つ一つ研究しました。技をマスターしていくたびに楽しくなり、現場でも少しずつ試していきました。

 «湯らっくす就職前は製造業などで働いていたという。元々凝り性だったこともあり、独学で研究を重ねた。休憩中に施設内のヨガルームで、帰宅後は自宅で特訓。利用者に気持ちよく汗をかいてもらうため、自身も必死に汗をかいたというわけだ»

 私自身がアウフグースをしている姿を会員制交流サイト(SNS)で発信するようになると、次第に海外の同業者からの反応が増えてきました。私の動画を評価してくれたり、多くの技をアップロードしてくれたりするようになったんです。(アウフグースは)ドイツをはじめ、ヨーロッパでは盛んです。あちらの熱波師は体格もいいし、筋力も違う。技の進化もここ数年で深まったし、センスも感じられますね。

 «何しろ座っているだけで汗だくになるしゃくねつのサウナ室である。サウナーたちを満足させる風を届けるには、センスだけでなく体力も必要だろう»

 そうですね。私は身長170センチ、体重54キロ。頑丈でもありません。自分に合った風の起こし方をしていこうと心がけています。

全国からケビン福永さんの熱波を求めて熊本を訪れるサウナーは少なくない

 湯らっくすでは、約20人のアウフギーサーがいて、正午から午前1時まで1時間おきに計14回、アウフグースをしています。私も勤務時は1日数回、90度近い室温の中で数分間タオルを振ります。脱水症状にならないよう、1日2リットル以上の水を飲むなど体調管理には常に気を付けています。

 «なんとも奥が深いアウフグースの世界だが、人気が高まることによって生じた懸念もあったとか?»

 熱波師が「かっこいい技を見せよう見せよう」とするばかりに、お客さんを置き去りにするケースが多いのです。実は私も歩んで来た道です(笑)。若い人に特にそういう傾向があります。エンターテインメントも重要ですが、バランスが大事。利用者一人一人にしっかり風を送れているか、顔色などを観察したり、少しきつそうにしている人には弱めに風を当てたりといった気配りが大切ですね。

 今年5月、新型コロナウイルスの影響などもあり、約2カ月間、アウフグースサービスを休止したのですが、その際スタッフ間で「あいさつがしっかりできているか」「サウナマットがきれいに整頓されているか」「掃除が行き届いているか」など、基本を見直しました。施設自体の底上げができたと手応えを感じています。

ケビン福永さんによるアウフグース「パラシュート」の優しい風に魅了されるサウナーは多い

 «福永さんの熱波を受けると、いつも以上に汗が大量に噴き出す。それでいて、風がただ熱いだけではなく柔らかさを感じるのはサウナーへの思いやりがあるからだろう。湯らっくすには、豊富な地下水をくみ上げた日本一の深さ(171センチ)を誇る水風呂がある。「MAD MAX」と書かれたボタンを押すと阿蘇の伏流水が1分間で250リットル、頭上から流れてくる仕掛けが人気で、水温は15度ほど。アウフグースを十二分に味わった後に入る水風呂は、まさに気持ちよさマックスだ»

「MAD MAX」と書かれたボタンを押すと、滝のように頭から地下水が落ちてくる

 以前は、接客が苦手だと自分で思っていました。でもアウフグースと出合って変わった。今は、お客さんに直接「ありがとう」と言ってもらえることが本当にうれしい。利用者は日常から離れて癒やされたいと来てくださるので、これからもその思いに応えていきたいですね。

(西日本新聞meサウナ部・永松幸治)

◆   ◆

 ロウリュ・アウフグース サウナ室内で湿度と体感温度を高めるために用いられる。サウナストーブの上に置いたサウナストーンにアロマオイルなどを混ぜた水をかけ、蒸気を発生させるのがロウリュ。より多くの発汗を促し、体の深部まで温めることができるほか、リラックス効果も得られる。サウナの本場フィンランドが発祥。日本では近年、利用者が自分で水をかけることができる「セルフロウリュ」や、機械が一定の時間で水をかける「オートロウリュ」を採用する施設も増えている。

 発生した蒸気を大きめのタオルやうちわであおぎ、利用者に熱風を送るのがアウフグース。こちらはドイツが発祥で、スタッフはアウフギーサー、または熱波師と呼ばれる。

 両手を上げてバンザイポーズをしたり、後ろを向いて背中(尻)を見せたり、熱風を受ける際の利用者のスタイルには個性が表れる。一度アウフグースをした後、希望者に再び熱風を送る「お代わり」と呼ばれるサービスを提供する施設もある。5度もお代わりをした上で「物足りない」と訴え、熱波師2人から同時に風を送ってもらう「ダブル」を要求した猛者のサウナーも目撃されている。

 なお、西日本新聞meサウナ部では当初「お代わり」を3回以上受けることが入部条件となっていたが、「サウナは自分のペースで入るのがベスト」という考えの下、撤廃された。

関連記事

PR

PR